2021年02月06日

ランボー超人Bの物語―7超人だってば、俺はD

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俺は文字通り舞い上がってる状態だもんで、彼女に受けそうなことならなんでもする積りになってたさ
まず、もっと灯りの華やかに点いてる辺りを目指すことにした

「駒沢さん、少し場所を変えるからね」そう話しかけてから、ゆっくり光の海の方向に向けて飛び始めた
「純だよ。わたしの名前呼ぶの、じゅんでいいよ」それが、彼女の返事だった。やほほーぃ!

それから俺たちは、とっても気持ちよく、東京の夜景の上を遊覧飛行を楽しんだんだ
だが、そこで問題が起きた。超人の俺には寒さが分からなかったこと。そして、有頂天になってる俺は、寒さで震えている駒沢さんの変化に、気付けなかったこと

1時間くらい飛んでいて、すっかり駒沢さんが喋らなくなったことに、やっと気が付いたアホな俺
「ごめん、ちょっと寒過ぎだった?」声を掛けると、駒沢さんはかすかに頷いた

その頃、レーダーに捉えられている、首都上空をふらふら飛んでいる未確認飛行物体について、在日米軍や航空自衛隊基地では、その対策会議でてんてこ舞いだったらしい(後でNetニュースになっていた。どうも、駒沢さんの銀色のダウンがレーダー波に引っかかったみたい)

こっちはそんなこと知らないから、すっかり冷えてがたがた震えてる駒沢さんを、早く暖かいところに連れてこうと、あせって着陸場所を探してたよ

確か、山に登る奴から、100m上ると1度くらい温度が下がるって、聞いてたのを思い出した
下だってクリスマス前だから、この時間は5〜6度くらいだろう。ってことは、俺は駒沢さんを0℃くらいのとこに連れていたってことになるんだもんな

灯りの消えてるビルの屋上に、一旦降りて屋上から下を見て誰も居ないのを確認して、やっと駒沢さんを下の道に降ろせた

どうも風邪をひきかかってるみたいで、うんと調子が悪そうな駒沢さん。とっても、じゅんなんて呼べるタイミングじゃないぞ

とにかく温かいところに連れてきたいんだけど、人けの無いとこを選んで下りたんで、時間も時間だし、寄れそうなとこって言えば、怪しい照明のホ、テ、ルが目に付くだけだ

困った俺は、チャンス、って囁くワルの俺の声を無視して、駒沢さんに「家、どこなの?」って訊くしかなかったさ。フェアプレイ精神なんだよな俺

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「家、中目黒です」小さな声で駒沢さんが答えた
「じゃあ、送ります」って紳士の俺だけど、言ってから中目黒って、夜、空から見て分かる?って、なった

「空から見て、家、分かりますか?」って、間抜けな感じだけど、しょうがないから駒沢さんに訊ねた
「ああ、そうですね。夜だし、空からじゃ分かりませんよね」少しほっとした声で駒沢さんが応える

それで、地下鉄かタクシーか、ってなって、当然、タクシー捉まえて「中目黒までっ」ってなった
そうして、タクシーの車内で、駒沢さんとぴったりくっついて座ってると、いろいろ妄想が広がり始めた

そう言えば、超人になったんで、気温とか、極端言えば火だって感じないんだけど、駒沢さんの体温は感じる
そんなこと考えてると、アソコがむくむくしてきちゃって、焦る

もしも、駒沢さんの家(古めのマンションらしい)に送って、上がってって言われちゃったら、どーする?
それで、あーなってこーなっちゃったら、どーするよ俺

大体、超人の俺が、アレすることになったら、どうなっちゃうんだろ
25才の健康な男子の俺は、アレの経験が無いわけじゃない。…2回だけど、ある!

それで、アノときのイケイケGOGO!のときに、どうなっちまうか、わかってる
わからんくなることがあることが、わかってるから、ヤバい。なんかすごく熱中しちゃうことがヤバい!

とかなんとか、考えてるうちにタクシーがとある4〜5階建てのマンション前に停まり、ドアが、バッて
開いた
「今夜はどうもありがと。また、連絡するね」って、一言残して、駒沢さんは爽やかに降りてった
「この後、どちらまで行きましょうか?」って、運ちゃんが言ってきた

「ちょっとその先で降ろしてくれていいから」そう俺が言うと
残念でしたね、みたいな雰囲気、思いっ切り醸し出して、運ちゃんは、わざとらしく数ブロック走ってドアを開けると

「1万880円です」って、無愛想な声で言う(5万円もらったのが、半分以下になっちまったよ)
全然どこか分からない街角で、俺はスマホでマップを出して、自分家の位置を調べといて、空に舞い上がった

幸い夜でもよく見える目のおかげで、なんとか立川のアパートに帰れた俺は、部屋に戻れて良かった〜って、本気でほっとしたさ
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2020年07月12日

ランボー超人Bの物語―6 超人デビューB

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なるほどね、スー〇ーマンらしく、空を飛んで帰れってか。まあ、そりゃそうだろうな。屋内では飛んで見せたけど、空をカッコよく飛ぶとこは、まだ見せてないもんな

ということで、屋上に向かうことにしたんだけど、後をカメラマンとザキさんと駒沢さんが付いて来る
「一緒に屋上に行くんですか」って訊いたら、「ええ」ってだけ答えて、後は無言

結局エレベーターで屋上に着くと、殿倉さんと局長って呼ばれてた人と、なんだかもっと偉そうなラスボス風の年寄り寸前の人とが、集まってる

「じゃあ」って一言だけ言って、ぴって指先を額に当てて挨拶して(その方がカッコイイって思ってさ)、ぽんと空に飛び上がった

カッコよく飛ぶって、ほんと難しい
それまでにも家の近所で練習してたんだけど、まず片手を突き上げる(ウル〇ラマン的な)か、両手を上げるか、なにもせずふいっと飛び上がるかで迷ってた

スマホをセットしといて、撮ってみたけど、我ながらカッコよく飛べてない
そりゃイケメンでも、筋肉もりもりでもないし、いけてるコスチュームじゃないし(最近はマントなしが多いけど)って、自分をディスってたんだよね

このときは、片手あげぇの、飛んですぐ両手揃えーのでやってみたわけ
少し上がったとこで、コースを変えるふりして、ちらっと屋上を見たらば、殿倉さんと局長さんが「社長、見たでしょ、本物ですよ彼は」なんて、言ってる声が聴こえたさ

よし、やったぁ、って調子に乗ってスピードぐんぐん上げて、ぶっ飛ばす
往きが時速200qくらいだったとすると、その5倍くらい出てたかなぁ、1000qくらいだったかな、きっと

実は都内上空を、そんなスピードで飛んだんで、羽田のレーダーや、厚木基地のレーダーに引っかかったんだけど、大型の鳥ぐらいの大きさで、あっと言う間にアパートに着いちまった俺が、急に減速して降りちまったもんで、なにか謎の飛行体って、記録されたくらいで特に問題にはならなかったみたい

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とにかく、やっと部屋に戻れて(もう6時だ)、やれやれの俺
日頃、話したことなんかない年長の偉い人たちと、沢山話したんで、頭の中はめっちゃ疲れまくりだ

体は全然疲れてないけど、腹が減って減って…、まるで胃袋が俺を食いたくて暴れてるみたいだ
冷蔵庫を開けてビール(第3だけど)出して、つまみも探したがチーカマの残りがあっただけ

お湯沸かして、金が無くなった時の非常食のカップヌードルを用意して、テレビを点けた
ビールはそれなりに美味しかったけど、全然酔わない(超人になって失敗したとこ)

カップヌードル2つ食べても、まだ腹が減ってる
こりゃ、早く仕事見つけないとやばいなぁ、って思いながら、今日テレビ局でもらった封筒を開けた

『専属ゲスト出演契約書』と題された用紙は2枚一組が2組ともう1枚あって、甲がTテレビ、乙が上辻曲勇太郎となっていて、甲は乙のテレビ番組出演並びに、乙の活動する映像の使用権利を、優先的に乙より承認されるものとする、とか書いてある

その後は、ああいう場合はこう、こういう場合もこう、みたいなことが書いてあって、肝心なギャラのこととかは、その都度両者の協議による、となっているだけで、具体的な金額は出ていない

だけど、一番最後の方に、専属謝礼金は当面月額25万円と書いてあり、その月の25日に乙の指定口座に振り込む、となってたんで、やっとほっとした

2枚一組は、はんこを押して、それぞれで持つものらしく、残った1枚は、この契約書を取り交わしてからの、予定みたいなことが書かれていた

それによると、なんだか打ち合わせが多いみたいだし
どっかに行くときは、一応連絡をとること、みたいな注意が書いてあったりするんで

専属謝礼金に釣られて、はんこを押しちまう寸前で、俺は自分にストップをかけた
『長ったらしくて訳がわからん書き方してる契約書ってのは、大体こっちが損するもんだから、はんこは絶対押すな』死んだ親父が言ってたことを思い出したんだ

しばらく眺めてから、俺は俺を励ますように「俺は超人ランボーだ」と声に出してみた
何回か言ってるうちに、段々その気になってくる

そうだ、これから超人ってことでやってくんなら、これくらいのことでブルーになってたまるか!
…だよな親父

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それから俺は、今日のこれまでのことを、柄にもなくじっくり思い返してみることにした
で、最初に頭に浮かんだのは、あのラスボスの親分さんのことだった

自分でも、なぜだか分らなかったが、とにかく印象に残ってんだよな
正義の味方ですったって、悪い奴らなんてわからんようにやってるだろうから、やっつけようがないかも

これで、テレビの人たちに、ああじゃこうじゃ言われたら、やってられんじゃないかなぁ
じゃあ、どうする、正義の味方って言わんようにして、目に着いたらやるにしょっかな

やっぱり考えてもしょうがないんで、テレビを点けたら、ちょうど7時のニュースが始まったところで
NH〇のアナウンサーが伝える中国とアメリカの揉め事のニュースに続いて、中国で新型インフルエンザが発生したとか話し始めた

俺は超人だけど、病気にも無敵なんだろうか
勝手に超人は死なないって、と思い込んでたけど、なんにだって限界があるって言うもんなぁ

まあ、くよくよしてたってしょーがない
それより、テレビの契約をどーするかだな

ぐじゃぐじゃ考えてるうちに、急にめんどくさくなってきたんで、俺はもう放かすことにした
別に、契約なんて結ばなくたって、俺が大活躍すりゃあ、向こうから寄ってくるだろ

後は、お金をどうやって稼ぐかだな
取りあえず、力仕事でもやって稼ごうって結論して、考えるのは中止にして、バラエティやってそうな局にチャンネル変えた

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あんまり面白くないバラエティ番組を観ているうちに、そうか、俺もこの芸人ワクくらいに思われてるんじゃないか、…っていうか、芸人でもない奇人変人ワクかも知れん、と気が付いた

それならそれで、変な演出されるより、俺自身で考えて行動できる方がいいや、と決心してた

それと、力仕事の方は、建物の解体業者に売り込んで、パワーシャベルより早くて安く家一軒片付けられます、って売り込めば、どこか使ってくれるとこあるだろ、って閃いたんだ

まあ、それはそれでいいな
後はあれだな、なに着て行くかだな

考えてみると、超人になってから、いつもそこが気になってたみたいだ
別に、どんな格好でもいいじゃんって思ったりもするんだけど、そこが一番大事な気もするんだよな

普通の会社の連中が、スーツとかカバンとか、靴のブランドばっか自慢してるのも分かる
なんだか、見かけで人って判断するんだよな、学校行ってた頃は、親も先生も中身が大事って…

就活でそうじゃない、って、段々分からされて
やっと入れた外食チェーンの会社は、制服あったけど、着方も結構うるさくて

大手に入った連中なんて、パリッとして、中堅会社に行った奴らは、まあまあの格好で
俺なんて、そいつらがいつ店に来るか、気になったもんな

どうでもいいけど、世間とか親とか親戚とか、実家の近所とか、皆んな格好気にしてるの丸わかり
とかなんとか言ってる俺だって、超人しに行くときの、着るもの気にしてるんだもんなぁ

まあ、契約はしないって言ったら、テレビ局で服、用意してもらうの駄目になるかも知れんけど
それでも、ここは強気で行くべきだって、俺の心の中の俺が、いけいけサインばり出しまくりなんだよね

結局、一晩寝て、こんどは電車乗り継いで、Tテレに行った
愛想よく受け付けてくれた受付の女の子が、連絡してくれたらすぐに、ADの駒沢さんが来てくれた

駒沢さんに案内されて、局の人たちが使ってる喫茶コーナーで、コーヒーを出してもらった
「連絡頂いてなかったんで、野木崎はスタジオなんです。今日は、昨日の契約書の件ですか?」

「ええ、契約書は出さんことにしました。それで、昨日借りたのお返しします」紙袋に入ったやつを駒沢さんに渡そうとすると

「ああ、この服は返却して頂かなくてもいいんですけど。そうですか、契約書はまた後日に、ご検討頂く形で構わないんで…」なんか困ってる風だ
posted by 熟年超人K at 16:20| Comment(0) | 書き足しお気楽SF小説

2020年05月27日

ランボー超人Bの物語―6 超人デビューA

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俺の呼び名は、超人ランボーになっちまったみたいだ
それでもこうして、レイコさんをぼーっと見てる俺ってやっぱパンピーなんだな〜

椅子に座っていても落ち着かないから、ちょっとサービス心で、レイコさんが座ってる椅子ごと持ち上げて、ふわっと浮いてみた

驚いた顔も可愛いし、きれいだなぁって思ってると
「急にこんなことして、びっくりさせないでよ!」って、怒られちまった

でも、椅子ごと宙に浮かせてるんで、落っこちそうで、声に迫力がないんだ
「大丈夫だよ、落っことさないから」って声かけて、それでも怖そうにしてるから、そぅっと下ろした

「ねえ、貴方って車や電車とかも、こうやって持って空を飛べるの?」ちょっと落ち着いたのか、声に余裕が出て来た
「ええ、まあ、多分…。まだやったことないんだけど、できると思うよ」…がっかりさせたかなぁ

でも、やったことないのは事実なんだから、ここは素直に話しといたわけ
「そうなの、じゃあ番組でやってみせたらきっと受けるわよ」そうか、なにかやって見せないといかんのか

「でも、俺は超人なんで、そう安く見せたくないんだ」ちょっきしマジに答えた
「う〜ん、まあそうね。じゃあ、やりかたは任せるから。なにかインパクトあるの期待してるわ」って、ご機嫌損ねたかなぁ

「おお、まだ居たね。外じゃ今、大騒ぎになってるよ。君だろ、大吉会をぶっ壊したの」興奮で赤くなった顔をしたチーフDのザキさんが部屋に戻ってきた
「でね、ありものの衣装じゃインパクト無いから、新しいの作ることになったんだ」ザキさんが親指を立ててウインクした

「とにかく丈夫なのにして欲しいです」今日のドタバタで、普通の服じゃあ、とてもじゃないけど、もたないことが分かったので、ここは強調したいところだった

「ああ、はい、わかりましたけど、かっこよさも大事だからね。まあ、任せといてください」ザキさんは、また親指を立てて、ウインクした
「あ、そうそう、マントって要る?あったほうが、いいよね。いや、スー〇ーマンみたいになっちゃうから、まずいかな」一人でどんどん喋ってる。ちょっとついてけない

「制作会議、いつなんですか」レイコさんがザキさんに訊いた
「いや、なんか企画会議から始めたいって、ミスターが言ってましたよ」…ミスターって多分、あのメインキャスターさんだな

その後、俺をそっちのけにして、二人で喋り出したんで、退屈になった俺は会議室の壁を透視してみた
隣りも会議室みたいで、男の人が二人、片方が椅子に座り、もう一方が立ってなにか話してる

ちょっと気になったんで、話し声に耳を集中させると、結構はっきり聴こえる
「だから、これはチャンスなんだよ。あの若い男はテレビに興味あるんだ」

「うん、それは認めるが、だからってウチがイニシアチブ取って、タレント扱いするのはどうかなぁ。どこかで、暴れたりされたら、ウチにも火の粉が降ってくるかもだよ」
「そこは、コントロールするさ。そうしとかないと、ただの奇人変人になっちまうぞ」えー、奇人変人だってぇ、俺のこと!?

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頭に来たけど、ここの会議机をひっくり返したってどうにもならないのは分ってた
俺一人じゃ、らしい衣装は揃えられないし、女の子の人気も集められっこない

正義の味方ったって、ホントにやろうとすると、あのボスキャラさんが言ってたみたいに、どうせ誰が本当に正しいのか、なんてわかりっこない

俺としては、直観的に正しいって思えた方をひいきする、ってことにしようと思ってる
とかなんとか考えていたが、隣りの部屋の二人は、俺の存在価値の確定が大事だとか、二の線は無理っぽいから、三の線をベースにおいたらいいんじゃないかとか、災害や大事故が起きたとき、タイムリーに出動できる仕組みをどうやって作るか、なんて熱心に話している

なんだか、馬鹿らしくなっちまった俺は、レイコさんにだけは挨拶して、もう行っちゃおうかな、ってぼんやり考えていた

その時、部屋のドアが開いて、メインキャスターさんが顔を出した
「どーも、お待たせしましたね。今後の貴方とウチの局との協力体制を検討していましてね。とにかく、貴方は大変な重要人物だから」こっちを真直ぐ見て、物を言う自信にあふれた態度は、さすがだよね

「それで、こちらでもレイコキャスターが上辻曲さんのご意向を伺い、“超人ランボー”でどうかと…」ザキさんが、少し緊張した口調でそう言った
「わたしも、それでいいかな、って思ったんですけど、殿倉さんはどう思われます?」レイコさんが付け加える

「う〜ん、ランボー、か。どうだろ、アチラからなにか言って来やしないかな」
「ああ、そうですねぇ、一度法務部に訊いてからにしましょうか。それと、上辻曲さんのご要望を伺って、衣装の方も大筋、決めておきたいと思ってますので…」

「それじゃ君、上辻曲さんがお困りになるだろうから、こちらで5〜6点チョイスしておいて、直感でお選び頂くようにしてよ」ああそうそう、その方がこっちも助かる、って正直俺は思ったんだ。だって、ブック〇フやユニ〇ロで探してみて、俺ってそういうセンスないし、スタイルだってそんなカッコよくないしさ

「わかりました、それじゃあ今日はこれで失礼…」って、喋りかけたら、殿倉メインキャスターが慌てて
「いやいやいや、貴方とはまだお話が残ってますので、もう少しだけお時間くださいな」とか言う

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こんな話のプロと、サシで話しなんかしたら、なんでも引き受けさせられちゃいそうだと思った俺は、ちょっと強気に出ることにした

「お宅は知らんと思うけど、俺、超人だからさ、さっきのお宅さんたちの話は、ぜ〜んぶ聴こえちゃってたんだよね。ほら、三の線って三枚目のことでしょ。いくら素人でも、知ってるって、それくらい」って、かましてやった

「ほぉ〜、聴こえてたんだ。さすが超人だねぇ。そりゃあいいや、打ち合わせが楽になったってもんだね。
で、どう、上辻曲さんのご希望は?」全然びびってない。すごいな、この人、って正直思っちゃった

「そりゃあ俺は、イケメンじゃないから、牧じゅんみたいにやれないから…」人気グループのイケメンメンバーの顔を思い浮かべちゃって、俺としてはなんだか強くは言えなくなっちゃったんだよね

「野木崎くん、衣装の候補はもう出てるの?」後ろに立っているチーフDに、振り返りもしないで声をかける
「は、はい、ADの駒沢くんにリストアップを頼んでますので、もうすぐ持って来るはずです」

「オッケイ。じゃ、衣装は後で選んで頂くとして、上辻曲さんは元から超人だったんですか?それとも、よくある何かのきっかけで、超人になれたとか」鋭く的に当たった質問に、俺は瞬間的にパニクって、つい本当のことを言いそうになった

「それが、よく覚えてないんすよ。なにかピカーっと光ったような気がするんだけど、ぜ〜んぜん記憶無いんすよ」とりあえず、うまくごまかしちった
「そうか、覚えてないのか。いつくらいからなの、超人になったって意識したのは?」

「そうっすねぇ、ひと月くらい前かなぁ。なんだか力が溢れてるぞって思ったのは。それから、飛んでみたり走ってみたり、工事現場にあったユンボを持ち上げてみて、分かったんす。俺、超人になったって」ここらは、大体ほんとのことだな

「そうか、そのあたり、番組内でインタビューさせるんで、もう少しなにかエピソードみたいなもの、思い出しておいてもらえるかなぁ、ちょい地味だからね。いやいや、別に特に創らなくたっていいんだけどね」少し脚色してくれって、言ってるんだよな

「はい。で、今日はもう帰っていいんでしょうか」体は超人なんで、どこも痛くないんだけど、精神的には、結構やられてるって言うか、今頃になってあそこで、ぶっ飛ばした奴の様子とか、しっかり甦って来てるんだよね」

「そうか、じゃザキちゃん、次のスケジュール連絡先とか、しっかり打ち合わせといてね。それから、上辻曲さん、貴方、超人として、今やりたいことって、なんですか?」…やりたいこと?なんだろ

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少し前までなら、正義の味方です!とか答えたんだろうが、今、ちょっとそうじゃないんだよな
超人になったってことで、スポーツ選手はナッシングだし(…だって、なにやったって勝負にならんのは、いくら俺だってわかってるさ)

それ以外で超人が活きるのはガテン系くらいだし、まあSPとか、警察か自衛隊もいけそうだけど、映画とかでしか見たことないけど、上官とかが居て、規則とか規律とか、うるさそうだもんなぁ…

「なにか、世の中の悪を正そうとか、そういう希望はないのかな」黙ってたら、焦れたように殿倉さんがボソッと言った

「そうなんですよ、俺も最初はそう思ってたんすけど、さっき暴力団とか言われてるビルにアタックした時、あそこのラスボスみたいな人に会って、その人ケッコーしっかりした人で、なにが正しくてなにが悪なのか、よく分からなくなっちゃってるんですよ」ほんとのとこ、そーなんだ

ほう、と言うと殿倉さんは額に手を当てて、黙っちまった
俺もなんか言いたかったが、なんも言えんかった

「悩むことなんかないんじゃない」よく通る女の人の声がした
見ると、いつのまにかレイコさんが殿倉さんの後ろに立っている

「ねえ、殿倉さん、この方はちゃんと超人なんです。さっきも、わたしを椅子ごと持ち上げて、空中に浮かせてくれたんです。それだけでもう、超人だったわ。他の誰にも、絶対まねできない超人なんですよ」

「そうだな。そう、それでいけばいいか。なにをやってもらいたいか、なにができるのか、日本がそれでどう変われるのか、それがテーマってことでいい。そう、第一段階はそれだ」殿倉さんが顔を上げた

「あと、ですね、俺って有名になったら、どうなるんですかね」そう、一番疑問なとこ
「う〜ん、まあ有名になったら、女の子にもててもてて、仕方ないんだろうねぇ」にやにやしながら、ディレクターのザキさんが話に加わって来た

「女の子だけじゃなくて、僕らマスコミからもチヤホヤされるし、芸能界もほっとかんだろうなぁ。でも、君がそれを全部楽しめるかどうかは、君次第だろうけどね」殿倉さんが付け足す

「マネジメントをどこかに頼むのもいいけど、せっかく超人なんだから、普通人のルールなんて無視して、好きなようにやるって手もあるわよ。ただし、ウチとは内々に連絡取ってもらえるように、ってことだけど」

「それはいいんですけど、とりあえず俺、今日は帰ってゆっくり考えさせてもらいたいんですけど、いいですか?」はっきり言って、体力的には全然問題ないんだけど、精神的には疲れちまってるんだ俺

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「ええ、ああ、まあ、いいですよ、お帰りになっても。ただ、その格好じゃあ…。ザキさん、なにか彼に着替え用意してあげてくれる」

「はい。駒沢さん、駒沢さん、彼に着てもらえそうな衣装、あるかなー」
呼ばれて顔を覗かせたADの駒沢さんが、「なにかあると思います」と返事だけして、すぐ引っ込んだ

「すみません、ちょっとトイレに行っていいですか?」超人なんだけど、これは我慢できないんだよね
「ああ、どうぞ。ザキさん、案内してあげて」

ザキさんに案内されて、トイレに向かったんだけど、ちょっと気になる部屋があったりすると、つい視線がいっちまって、部屋の中が覗けちゃうんだ

耳だって、あんまり沢山の音が入ってくるんで、いちいち気にしないようにしてるけど、ところどころ興味を惹く言葉(アイドルのアイちゃんとか、人気女優のトッキーの名前とか)が聞こえてくるから、つい、ね

まあ、“見る”は、見ちゃいけなそうな方向は、向かないようにできるけど、耳は勝手にいろいろ入って来るから、しょうがない

トイレに入って、とにかく周りを見ないようにするのが結構大変で
ついつい見たくもないものが視野に飛び込んでくる
うっかり強めに見ると男子トイレの隣りのトイレまで見えそうであせっちまった

俺は別にそんなもの見たい趣味はないから、目をそらし強く見ないようにしたんで
結果的にこの超人の視力のコントロールを学べたってわけ

部屋に戻ると、もう殿倉さんもレイコさんも居なくなっていて
ADの駒沢さんが書面を持って待っていた

「すみません、こちらにサインをお願いできますか」えっ、サイン、もう俺のフアンかよ、って思ったけど
なんか違う。契約書みたい、ってか契約書って書いてある

文面がややこしそうなんで、よく読みもせず
「あっ、こういうのすぐサインとかハンコとかやるなって、死んだ親父が言ってたんで」って首を振った

「そうですか、ならお持ち帰り頂いても良いそうなので、ご納得頂けたらよろしくお願いします」と言うと、書面を大事そうにテレビ局の封筒に入れて、俺に手渡した

「それから、これどちらかお好きな方、どうぞ」と言って、青いジャージと赤いジャージをテーブルに置いた
あれ、これってお笑いコンビの衣装じゃぁ…?

でも、文句も言えないんで、青い方を手にした
持ってみると、結構いい生地で、俺の知ってるジャージとは大分違う

着てみると背が高くも低くもない俺にぴったりだ
下の方を履く間、向こうを見ていた駒沢さんが、嬉しそうな顔をして「思った通りぴったりでしたね」と言う

結構感じの良い笑顔に、俺も嬉しくなって、なんだか駒沢さんって可愛いとこあるな、って好感
「それじゃ、帰ります」と挨拶すると「殿倉さんが屋上からお帰り下さい、とのことでした」って言った
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2020年04月12日

ランボー超人Bの物語―6 超人デビュー@

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スタジオ内がばたつく中で、その男だけは落ち着いた雰囲気で、こっちに歩み寄って来る
その大物感に負けて、俺はうっかり頭を下げちまった

「君が超人なのは分かったが、で今日は、一体ここに何しに来たんだ?」
「さっき、ここの近くの暴力団の事務所をぶっ壊してきたんですが…」

髭のADかディレクターが、さっきから警察が集まってます、とメインキャスターに耳打ちした
「そうか、ここじゃなんだから、場所を変えよう。君、打ち合わせできる部屋、押さえて」

ADだかディレクターだかは、はっ、と言って空き部屋を探しに駆け出した
「君はどうも、スーパーマンには見えないけど、ぶっ壊したって、具体的なところ、どうやったの?」

「まあ、何人か吹っ飛ばして…、そう言えばナイフかなんかで切られたりもして…」
「そうか、そうなんだ。いい、いい、後は部屋が見つかったらでいいよ」顔が笑顔になってる

5分ほど待っていたら、さっきのADだかディレクターが戻ってきて、部屋に案内してくれた
割と広い会議室みたいなとこで、会議用のテーブルがロの字形に並べてあって、椅子が5脚あった

ロの字の一つの辺には椅子が2つ、その左右のテーブルにそれぞれ1つずつ、残った辺に1つ
その残った辺の椅子が俺のらしくて、メインキャスターの人と、遅れて入って来た太った人が並んで腰かけた

さらに、カーディガンをひっかけた人(チーフディレクターですと、紹介された)、それからきれいな女性
おお、この女(ヒト)は見たことあるぞ、って俺は思った

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企画会議、だなんて言うから、もっと会議らしいかと思っていたら、もっとぶっちゃけたものだった
結局、メインキャスターの人が喋り役で、チーフデイレクターと女のキャスターさんと太った男は頷き役で

「君、空は飛べるの?」手元の手帳に目を走らせながら、メインキャスターが訊いてきた
「ええ、飛べますけど」なんだかちょっと照れちまった

「そう…、じゃちょっと飛んでみてよ。いや、ここじゃ無理だな、ちょっと宙に浮いてみてくれればいいや」
はあ、と返事して立ち上がって、天井までの距離を目見当してから、よいしょっと軽く浮いてみた

「おおおー、飛べるね、飛べるねぇ。…ねえ、局長」メインキャスターさんは、笑顔になりながら隣りの太った男に話しかけた
うんうん、と頷いて太った(局長さんらしき)男の人が、視線をチーフデイレクターと女のキャスターに送る

「すごいわねぇ、貴方、どうやって飛べてるの?」
軽〜く体を浮かせたんだけど、もうちょっとで天井のシーリングライトにぶつかる寸前で止まれた俺としては、返事するどころじゃなかった

「そこで宙返りとか、できるの?」チーフディレクターが呑気な質問をしてくる
「い、いやぁ、いつもさぁーって飛んでるんで、こういう風に止まってるの初めてなんすよ」とりあえず返事

「そうか、スタジオなら空間もっとあるし、いけるねぇ、さぁーっと」メインキャスターさんが弾んだ声を出す
「いいですよねぇ、Bスタの天井辺りまでさぁーっと飛んで頂いて、なにか持っておりてくるとか」女のキャスターもノリに合せて口を出す

「ドローン使いましょう、ドローンで空中の…っと、ええ、おタクさんお名前は?」って、チーフD
「ドローン!いいねぇ。局長、ドローン飛ばして、こちらの…っと、超人くんとからませて…」メインキャス

「もう、降りていいっすか」声をかけながら、こんな風に浮いた状態から、上手く降りられるのかなぁ、って不安な俺
「ああ、いいよいいよ、降りてらっしゃい」メインキャスのOKが出た

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「さて、諸君、どうする?この超人青年」ちょっと強めにどん、と着床した俺をそっちのけにして、メインキャスターが悪戯っぽく微笑んだ

「ウチの局と、専属契約結んでもらえるのかな」太った局長さんが、ぼそっと喋った
「そこはもう、こうして来てもらったんだから、オーケーでしょ、ね、ええっとお宅、お名前は?」

「上辻曲勇太郎です。かみは上で、つじまがりは辻を曲る、ゆうたろうは勇ましい太郎です」
「ほう、珍しい苗字だねぇ。でも、ちょっと舌を噛みそうだから、勇太郎君でいいかな」まあ、大体皆そう呼ぶんだよね

「で、ちょっとビジュアルそのままって訳、いかないでしょう」女キャスターが眉をしかめて言う
「そうっすね、なんか超人って説得力、ないっすね」チーフDが相槌打つ

「まさか、アメリカの有名超人と同んなじ格好させる訳にもいかないだろうしねぇ…」
「なにか戦隊もののサンプルコスチュームの、不採用になったのから探しましょうか」

「うん、いいいい、それでいこう。レイコちゃんとザキさんで選んであげて。後、契約書も用意してあげてね。僕はこの後が詰まってるから、頼んだよ。局長、それでオーケー、ですよね」太った局長さんが片手をあげると、メインキャスターさんと一緒に、部屋を出て行った

「衣装、用意しますから、ちょっとここで、待っててください。レイさん、あとよろネ」と言って、チーフDも部屋を出て行き、後は美人の女性キャスターのレイコ(って言うのか)さんと二人になっちまった

それはそれで、ちょっと嬉しいんだけど、レイコさんの俺を見る目は、結構厳しいものがある
「勇太郎さん、じゃ超人っぽくないわよね。なにか、呼んで欲しい名前とか、あるの?」ちょっぴり棘っぽい話し方だよな

「う〜ん、最初は正義の味方、なんとかマンとか考えたんですけど…」
「えーっ、全然らしくないよ、そんな呼び方。古臭いしぃ」笑顔ひとつ見せず、ずけずけ言う

「ですよねぇ、俺もなんか変だなーとは思ってたんすけどね」きれいな女(ヒト)だと、ついつい合せちゃう俺
「なにか、貴方の好きなヒーローとか、いないの。なりたいヒーローとか、スポーツ選手とか、格闘技系の選手のリングネームとか」

「そうかぁ、俺がソンケーしてるって言うか、好きなヒーローだったら、ランボーかな、映画の」
「へぇ〜、ランボーかぁ。ちょっと昔のキャラだけど、まあ、さっきの暴力団に殴り込んだって言う、貴方の話が本当なら、それもアリかもね。それに、やり方が乱暴みたいだしね」

「じゃあ、ランボーマンっすかね」口に出すと、なにか変だな
「ダッサー、なんとかマンから離れた方がいいわよ、絶対。ランボルジャーとか、う…ん、それもパクリみたいかなぁ」

「単純に、超人ランボーって、どうですかねぇ」
「ふ〜ん、超人ランボーかぁ。まあ、いいかもね。ストレートでいいか」そうやって、考えてる横顔が、いいんだよなぁ。レイコさんのフアンになっちまったかなぁ…俺は
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2020年03月25日

ランボー超人Bの物語―5 俺はランボー超人だーっC

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廊下に出たら、人影がいくつか動いたのが分かった
足音もよく聴こえたし、人の気配っていうか、空気が動いたのがわかるんだ

ただ、襲ってくる感じはなくって、こっちを見張ってるだけなようだ
ならどうでもいいか、と思って廊下の突き当りまで、軽〜く走ってみた

と、危なく突き当りの壁にぶつかるところで、なんとか急ブレーキで止まれた
周りを見廻すと非常口らしき鉄扉がある

ドアノブを掴んで、ぐいっと回すとめりっと音がして取れちまった(鍵がかかってたんだ)
なんて壊れやすいんだ、って思いながら、取れた痕に開いた穴に指を突っ込んで、引き開けた

ぎぎぃぃんんと、ひどい音がしてドアが引っぺがされる
遠巻きに見張ってる連中が、凍りついたみたいに目を見開いて突っ立ってる

ま、そんなものは放っといて、非常階段を駆け上ることにした
始めは3段飛ばしで、駆け上がってたけど、めんどくさくなって、階段すれすれに飛んでくことにした

確かにその方が早いし、なんか気分も良いことに気付いたんだ
スノボを逆に滑って上ることができたら、こんな感じになるのかなぁ

そのままの勢いで、階段の一番上に着いた
ここにも鉄扉があって、そこから屋上に出れそう

と思ったんで、止まらずそのままぶち当たっちまった
いつもの俺なら、絶対そんな無茶はしないんだけど、なんかハイになってたんだな

ばっがぁぁんん、それこそとんでもない音がして、鉄扉が屋上に吹っ飛ぶと
飛び降り防止の(多分)鉄柵にぶつかると、跳ね返って来て、屋上のコンクリート床でくるくる回った

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あんな重そうな鉄扉が、外まで跳んじまわなくて良かったぁ、って思ったよ
ここの屋上から下まで落ちたら、誰か怪我するか、運が悪けりゃ死ぬもんね

まあ、そうじゃなかったんで、良かったんだけど
飛び去る前に、飛び降り防止の鉄柵の上に乗って、下を見たらパトカーが2台3台停まるとこだった

ぶっ飛ばした鉄扉の跡から男が2人、こっちを見てたが、構わず空に飛び上がり
(と言っても、映画のスーパーマンみたいにカッコよくなかったけど)

真直ぐ上昇して、雲の中に飛び込んで、そこで水平に飛んで、下の連中の視線をまいてやった
なぜって、この後、割とご近所のテレビ局に寄ってこうと思ってたからさ

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空を飛んでみて気になったことがある
マントだ、あれがないとどうもカッコよく飛べてない

飛んでる印象が絶対違うと思う
まして、今日の俺はズダボロの紺のスゥェットって格好だもん

やっぱりマントがひらーってなってないと、らしくないじゃん
地上に降り立つときにもねぇ

アイ〇ンマンみたいに、メカっぽきゃあ別だけど
まあ、仕方ないな、それでテレビ局に行くんだから

急降下で雲を突き抜けると、また赤坂あたりが見えてきた
目印の丸いヘリポートが見える

ひゅーんと下りてって、着陸目印らしい丸で囲んだRマークにうまく着地できた
なにも壊さなかったことにほっとして、周りを見回すと下に降りられるそうな穴がある

そのタラップみたいな階段をとととっと下りると
下も円形フロアになっている

さらに下に降りられる出入り口を探し当て、鍵がかかってた鉄扉を力で開けて
下のフロアに向かった

全20階のこのビルは、2〜8階がテレビスタジオになっていると、ネットにあったので
多分偉い人たちが上の階で、11階12階の食堂みたいだから13階までオフィスなんだろうな

ってことで、非常階段をずーっと5階まで駆け下りたってわけ
別に、何階のどのスタジオでなにやってるかなんて、知らなかったけど、なんとなくのカンで

フロアに出るドアを思い切って開けてみると
人がぞろぞろ歩いてた

時計持ってないんで、何時か分からなかったけど、もしかすると昼のワイドショーの見学者だ
だって、皆んな素人っぽい顔だから

それでもちょっとは服の埃も払ってあるし、髪も手でさっさっと撫でてある
破れたスゥェットは、ファッションって言えばそうも見えるだろうし(多分無理だな)

穴が開いて、ナイフで引き裂かれたスゥェットシャツは…まあ普通じゃない感じだけど
濃い紺色だから、血が飛んでてもそこそこ見えてないどろうから、知らん顔で列の中に紛れ込んだ

おばさんたちは、皆、あらっ、って言う顔をして、俺の顔を見るけど
まあテレビ局なんてそんな奴もいるんだろう、って顔して通り過ぎてく

見学客の列を遡って、列の終わりが出て来た大きな扉を見つけて
知らん顔して、中に入り込むことに成功!

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通路じゃあ問題なかった俺の今の格好は、スタジオの中に入ると目立つかも知れん、ってどきどきした
スーツの男のキャスターや、きれいな服の女子アナたちは、番組が終わったぁ、っていう感じで

なにかぺちゃくちゃ喋ってる
俺と同じようなラフな格好の、デニムとTシャツとか、チノパンにジャンバーみたいな連中は、黙ってカメラやら長いコードとか、飾ってあった花なんか、ちゃっちゃ片付けてる

「おい、あんた誰?」って、声のかかった方を見ると、ポロシャツにカーディガンみたいな格好の、俺より2〜3個上の偉そうな男が、こっちを見てる
これがきっとディレクターって奴だな、って思ったから、一応ぺこっと頭を下げてやった

「そこでなにしてるの!見学者?、しだしさん?」全然疑ってる感じありあり
「えーっと、俺、超人でしてぇ、今、やくざさんのビルで暴れて来たんで、こんな格好で失礼します!」ちゃーんと、礼儀正しく答えてやった

「はぁ、なに…、なに言ってるの君。どっから入って来たの」ムチャクチャ警戒してる雰囲気になった
「ですから…」って言いながら、こりゃ実際なんかやって見せた方がいいかな、って思って見るからに重そうな物でも、片手で持ち上げたろうと、見廻すと大きなテレビカメラがあった

そいつを土台ごと右手で掴んで、ひょいって持ち上げたら、ディレクターさんが顔色変えて後ずさった
「こんなこと簡単なんっすよ。ほら」言いながら、頭の上まで持ち上げたら、電源コードかなんかが引っ張られて、そこらでガッチャンガラガラって、ひどい音がして、物が倒れちまった

結構スタジオ中に鳴り響いたもんで、向こうにいる出演者の皆んなもこっちを見るわ、いろいろ器材を片付けてた連中もぎょっとして、固まってる
「あ、どうもすみません」って、ちゃんと謝りながら、俺はそーっとカメラを床に置いた

「だれー、誰なのその人ー」テレビで見たことのある、一番偉そうな感じの、びしっと決まったスーツの男の人が、そう言いながら、こっちに寄ってくる
「危険かも知れないんで、お下がりくださいー」なんか必死な感じで、ディレクターが叫んだ
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2020年02月12日

ランボー超人Bの物語―5 俺はランボー超人だーっB

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「座らせてもらっていいっすか」うん、声は震えてない
デスクを前にしたラスボスらしいのが、顎を動かすと、さっきのスーツが手でデスクの前にある革張り(だろうな)のソファを、どうぞ、みたいな感じで手で示す

座ってみると、えらく深く沈むソファで、尻半分が穴に落ちて、はまってるみたいになっちまった
立ってる連中が、こっちが低くなったんで、見上げてる感じになってでかく見える

なーるほど、これはそこを狙ってる椅子なんだ(相手の狙いにはまっちまった、てとこだね)
おまけに深く沈んじまってるんで、動き辛いったらない

「で、あんた、ウチを退治に来たんだってな」相変わらず渋いいい声で、ラスボスがぼそっと言った
「ええ、まあ、俺、正義の味方なんで、お宅さんみたいなとこ、潰して廻ろうっておもってるんで」言えた言えた

「てめぇっ…」白スーツが内ポケットに手を入れながら、歯を食いしばったみたいな声で凄む
「やめろ、こいつは、見た目より強い奴だ」中年ダークスーツが、どすのきいた(って、こういうのだよね)声で、白スーツを手で制する

Vシネみたいな展開になって、俺としては、暴れるきっかけが何時来るんだろう、と思ってると
「よせよせ。大体、あんた、なんの遺恨でウチを狙うんだ」イコンって、恨み、とかだよな

「別に、特別には無いんだけど、ほら、お宅たちやくざって、悪いことやって儲けてるんだろう」って言ってやった
「そりゃあ、真面目に働いてるったぁ、言えんが、世間の儲けてる会社と、大して変わらんよ、ウチも」

「だめだめ、そんなこと言ったって、お宅らは組織暴力団って言われてるじゃん。俺、知ってるから」
「なにぐだぐだ言ってるんじゃ、会長、やっちまいましょうよ、こいつ」横から白スーツが口を挟む

「ばかやろう!会長のお話し中に、ちゃちゃ入れるんじゃねぇ!」中年ダークスーツが白スーツを叱り飛ばす
う〜ん、Vシネっぽいなぁ、この展開

しかし、誰も襲いかかって来ないってなると、こっちから手を出しにくい(なんというか、呼吸が読めん)
「まあ、今日のあんたの暴力沙汰には目をつむろう。ウチもこんな稼業だから、仕方ないところもある。腕っ節の強いのは分ったから、今日のところは一旦引いてくれ」ラスボスが貫録たっぷりに締めに入ってきた

えーっ、これで終わりにされたら、中途半端じゃん、って思ってると、遠くにテレビでお馴染みのパトカーのサイレンが、いっぱい聴こえてきた
俺が少しそわつくと、イケメンが「やばいっす、来ましたよサツが」って、口走る

一同、ざわっとしたところで、スーツがラスボスの目配せで、こちらへ、というように俺を逃がすような雰囲気を発散する
俺、どうしようかな、って迷ってる

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「すんません。俺、こういう考えなきゃいけないのって苦手なんで、もうちょっと居させてもらって、勝手に帰らせてもらいます」
こんなじゃあ、この後、テレビ局に行ったって、中途半端なのは俺でも分かるってこと

「会長、こいつこのまま帰しちまうんですか」白スーツが、目一杯怖そうな声を出す(おっいいぞ)
暴れるきっかけが欲しい俺は、深く沈んだ位置から、こっちもできるだけいやな眼つきで白スーツを睨んでやった

「笹島、いーから会長のおっしゃるようにしろっ」案内係のスーツが、白スーツを窘める
「そーだよ、笹島くん。言うこときかないと、怒られるぞぉ」消えそうになった火種に、慌てて空気を送る俺

そりゃそーだろうな、暴れてた時はともかく、こんなズダボロの格好で、でかいソファに沈み込んでる俺なんて、背も低いし、会社でもパッとしないなぁお前、なーんて言われてるくらいだから、白スーツにしたら、腹が立ってしょうがないんだろうよ

案の定「てめえ!」か、なんか口走って、俺の襟元を引っ掴んで、立たせようとした(あーぁ、やってくれたね)
その手をぐっと掴んで、斜め後ろに白スーツを投げ捨てると、その反動を利用して、ひょいと立ち上がった

壁にぶつかって、どーん、とド派手な音を立てて跳ね返り、ほぼ同じような位置に落ちた白スーツは、かすかに動いてはいるけど、もう戦力にはならない状態だ
俺が立ち上がった動きに反応して、中年スーツと案内係スーツが、素早くラスボスの前に移動し、イケメンがジャケットの内に手をつっこんだ

一触即発、とその時、ラスボスが立ち上がって「待った!」と、思いがけない力強い声で、皆を制した
俺と言えば、座っていたソファを引っ掴んで、目の前の中年スーツと案内係スーツにぶっつけようと、大きく振り上げたところだった

その力の凄さに、ラスボスを守るように立ちはだかっている二人のスーツ男の眼が、驚愕に見開かれ、俺の斜め後ろに位置するイケメンの手が、ジャケットに突っ込まれたまま止まっちまっている
ラスボスも驚いているようだが、さすがに親分なだけあって、割と冷静

「まあ、待ってくれ。権藤、笹島の様子を見てやれ。チャカは出すんじゃない!」
どうやら権藤がイケメンのようだ、すっと力が抜けて、軽く頭を下げると、白スーツのところに行く気配

「すまんかった。若いのが先走っちまった。勘弁してやってくれ」貫録って言うのは、こういうのかな
こうなると、これで暴れたら俺の方が悪いような気がして、とりあえずソファを下ろした(パトのサイレンが止まった)

「すまん。もうじきサツの連中が、ここにもやってくるだろう。後はこっちでやるから、あんたは好きにしてくれ」
結局、さっきの展開と同じになったみたいだが、微妙にラスボスの言い方が変わってることは、KYの俺にもわかった

で、しょうがないので、わかったと親指立てて(実はお辞儀しそうになって慌てて止めたんだけど)、部屋を出た
初めの計画じゃあ、みんなぶっ飛ばした後、窓をぶち破って飛び去る積りだったんだが、こんな街の真ん中の真昼間に、ガラスの雨を降らして、通行人が怪我したら、正義の味方なんて言えんぞ、って気がついたから、屋上からバイバイしようって、決めたんだ
posted by 熟年超人K at 11:46| Comment(0) | 書き足しお気楽SF小説