「琵琶瀬展望台ってとこまで走って、そこで休憩にしようと思います」って荘田君が言うんで、昨日の道を空からの伴走付きで走ってもらったんだけど、残念ながらヒグマは出ず
この道は観光道路っぽくて、初めのうちは山の中みたいになんだけど、途中から海沿いを走る感じになる
全体的に明るくて、とても熊が出るような雰囲気はないんだ
潮風に吹かれながら、荘田君が一生懸命走ってる様子を、3〜400mくらいの高さから(熊は出ないし、観光客らしき車がそこそこ走ってるから)眺めていて、俺はなにしてんだろ、ってぼんやり考えてた
進む方に何棟か建物が見えるんで、お先にって感じでそっちに先回りして、ちょうど誰もいないんで、長方形の建物の屋上が展望台ちゃあ展望台らしく見えるんで、そこに降りて待つことにした
しばらくすると、ふうふう言って荘田君が屋上に上がって来て「なぁ〜んもいませんね、ヒグマ」ってぼやいた
「どーする、まだこの先まで行く?」って訊くと、「どうしましょう。知床の方に行けば、結構な確率で出会えるらしいんですが、別になんの悪さもしてないみたいで、平和に暮らしてる熊たちを、超人ランボーがいじめてるみたいになりそうなんで、どうも…」って、もやっとした言い方になってる
「ただ、ここから近くの標茶町に、凄いのが出るらしいんで、そっちに行ってみましょうか」
それならってことで、床澤受信所に置きっ放しの自転車を、俺が伊藤旅館に返してから、ここで待ってる荘田君を自転車ごと持って、高度1000mくらいで飛ぼうか、って話になった
荘田君の方も、なんにもしないで待ってる訳じゃなくって、ちゃんといろいろ連絡取って(こっちの系列局に手伝ってもらい)、最近そのヒグマに、飼ってる牛をやられた牧場主さんを、訪ねられるようにしておくことになった
俺は、コスチュームが破れちゃったんで、私服(デニムの上下だけど超人なんで寒くはない)のまま、自転車に乗ってる荘田君の両脇に手を入れてそのまま持ち上げ、荘田君が見るスマホのマップ頼りに、その牧場目指すってことになった
ここ(諏訪瀬展望台)からの距離は、大体北西に50q弱くらいだから、30分もあれば行けそうだ
さすがに、自転車に乗ってる人を持って、私服の俺が空を飛んでいたらニュースでしょ、って荘田君が言うんで、人に見られないよう1000mくらいの高さで、なるべく森になってるところを選んで、標茶町の高松さんの牧場まで飛ぼうって決めた
結局、何人かに空飛ぶ自転車は見つかったみたいだけど、そこらは後の編集でなんとかなるさで強行
どうにかお目当ての牧場に着いたのは、まだ明るい午後3時ちょっと前だった
諏訪瀬展望台で伊藤旅館さんに作ってもらったおにぎりと、PETボトルのお茶の昼飯しか食べてないから、随分働かされてる俺は、もう腹が減り始めてる
それでも牧場主の高松さん夫婦はすごくいい人で、「よう来さったなぁ。なまら大変だったんでないかい」とか、北海道弁で話しかけてくれる
俺は一応ゲスト扱いっていうことで、荘田君が「こちらはこんな格好ですが、超人ランボーさんでして…」って、二人に紹介してくれるんけど、どうもこっちでは全然有名じゃないみたいで「…??」みたいな反応
ただ、地元の系列テレビ局の名を出すと、ああそうみたいな反応はある
お二人から詳しく話しを聞いていくうち、OSOと呼んでいるでかいヒグマが、夜のうちに、牛を襲って食べるんで、本当に困ってるのが分かった
「じゃあ、今夜僕らはここに待機して、そいつが出たら、超人ランボーさんがやっつけてやりますよ」って、荘田君が胸を叩く(俺は喋らず黙って立ってるだけ)
「でも、この人、本当にスー○ーマンなの?」奥さんが心配そうに言うんで、俺は外に置いてあるトラクターを持って、牧場の上をぐるっと回ってやった(論より証拠っていうやつ)
「ありゃ〜、こら、びっくらこいただべさぁ」って、夫婦でハモったのに俺らも受けて、表にあった薪用の丸木を手刀でぽんぽん割ってあげると、一気に信用されるようになった
「これなら、ヒグマ出てもなぁんもだべな」って、またご夫婦でハモってくれる
夜を待つ前に、北海道名物“ジンギスカン”をご馳走になってると、北海道の系列局の取材班が6人やって来て、一気に賑やかになり、荘田君なんか、ビール飲んで大分ご機嫌になってしまう
俺は、超人なんで酔うとかほとんどないんだけど、やっぱりなんか調子良くなるんだよな
とは言っても、酒盛りに来たわけじゃないんで、地元系列局のスタッフは10時過ぎるとしゃきっとして「そろそろ行きますか?」とか訊いてくる
さすがに荘田君も、酔いが覚めて手持ちカメラのチェックを始める
俺はって言うと「特に用意するものもないんだけど、このデニムの服も破かれたらいやだな」とか、ついグチると、地元局の女性スタッフさんが「終わったらこっちで繕いしますよ」って言ってくれた
それで俺も元気が出て、「じゃ、俺、この辺り飛んで、熊ヤローがいるか探しに行ってきます」って飛び上がりかけると、地元局のディレクターが「ちょっと、その格好じゃ夜空に紛れちゃうんじゃないかい」って、大きな声でストップをかける(荘田君は他人事みたいにそれもそうだな、とか言うだけ)
それから、じゃあどうするってなって、地元局の女性スタッフと、高松さんの奥さんとで黄色のスカーフ持って来て「せめて、これを首に巻いてください」ってなった
2023年03月20日
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