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俺の呼び名は、超人ランボーになっちまったみたいだ
それでもこうして、レイコさんをぼーっと見てる俺ってやっぱパンピーなんだな〜
椅子に座っていても落ち着かないから、ちょっとサービス心で、レイコさんが座ってる椅子ごと持ち上げて、ふわっと浮いてみた
驚いた顔も可愛いし、きれいだなぁって思ってると
「急にこんなことして、びっくりさせないでよ!」って、怒られちまった
でも、椅子ごと宙に浮かせてるんで、落っこちそうで、声に迫力がないんだ
「大丈夫だよ、落っことさないから」って声かけて、それでも怖そうにしてるから、そぅっと下ろした
「ねえ、貴方って車や電車とかも、こうやって持って空を飛べるの?」ちょっと落ち着いたのか、声に余裕が出て来た
「ええ、まあ、多分…。まだやったことないんだけど、できると思うよ」…がっかりさせたかなぁ
でも、やったことないのは事実なんだから、ここは素直に話しといたわけ
「そうなの、じゃあ番組でやってみせたらきっと受けるわよ」そうか、なにかやって見せないといかんのか
「でも、俺は超人なんで、そう安く見せたくないんだ」ちょっきしマジに答えた
「う〜ん、まあそうね。じゃあ、やりかたは任せるから。なにかインパクトあるの期待してるわ」って、ご機嫌損ねたかなぁ
「おお、まだ居たね。外じゃ今、大騒ぎになってるよ。君だろ、大吉会をぶっ壊したの」興奮で赤くなった顔をしたチーフDのザキさんが部屋に戻ってきた
「でね、ありものの衣装じゃインパクト無いから、新しいの作ることになったんだ」ザキさんが親指を立ててウインクした
「とにかく丈夫なのにして欲しいです」今日のドタバタで、普通の服じゃあ、とてもじゃないけど、もたないことが分かったので、ここは強調したいところだった
「ああ、はい、わかりましたけど、かっこよさも大事だからね。まあ、任せといてください」ザキさんは、また親指を立てて、ウインクした
「あ、そうそう、マントって要る?あったほうが、いいよね。いや、スー〇ーマンみたいになっちゃうから、まずいかな」一人でどんどん喋ってる。ちょっとついてけない
「制作会議、いつなんですか」レイコさんがザキさんに訊いた
「いや、なんか企画会議から始めたいって、ミスターが言ってましたよ」…ミスターって多分、あのメインキャスターさんだな
その後、俺をそっちのけにして、二人で喋り出したんで、退屈になった俺は会議室の壁を透視してみた
隣りも会議室みたいで、男の人が二人、片方が椅子に座り、もう一方が立ってなにか話してる
ちょっと気になったんで、話し声に耳を集中させると、結構はっきり聴こえる
「だから、これはチャンスなんだよ。あの若い男はテレビに興味あるんだ」
「うん、それは認めるが、だからってウチがイニシアチブ取って、タレント扱いするのはどうかなぁ。どこかで、暴れたりされたら、ウチにも火の粉が降ってくるかもだよ」
「そこは、コントロールするさ。そうしとかないと、ただの奇人変人になっちまうぞ」えー、奇人変人だってぇ、俺のこと!?
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頭に来たけど、ここの会議机をひっくり返したってどうにもならないのは分ってた
俺一人じゃ、らしい衣装は揃えられないし、女の子の人気も集められっこない
正義の味方ったって、ホントにやろうとすると、あのボスキャラさんが言ってたみたいに、どうせ誰が本当に正しいのか、なんてわかりっこない
俺としては、直観的に正しいって思えた方をひいきする、ってことにしようと思ってる
とかなんとか考えていたが、隣りの部屋の二人は、俺の存在価値の確定が大事だとか、二の線は無理っぽいから、三の線をベースにおいたらいいんじゃないかとか、災害や大事故が起きたとき、タイムリーに出動できる仕組みをどうやって作るか、なんて熱心に話している
なんだか、馬鹿らしくなっちまった俺は、レイコさんにだけは挨拶して、もう行っちゃおうかな、ってぼんやり考えていた
その時、部屋のドアが開いて、メインキャスターさんが顔を出した
「どーも、お待たせしましたね。今後の貴方とウチの局との協力体制を検討していましてね。とにかく、貴方は大変な重要人物だから」こっちを真直ぐ見て、物を言う自信にあふれた態度は、さすがだよね
「それで、こちらでもレイコキャスターが上辻曲さんのご意向を伺い、“超人ランボー”でどうかと…」ザキさんが、少し緊張した口調でそう言った
「わたしも、それでいいかな、って思ったんですけど、殿倉さんはどう思われます?」レイコさんが付け加える
「う〜ん、ランボー、か。どうだろ、アチラからなにか言って来やしないかな」
「ああ、そうですねぇ、一度法務部に訊いてからにしましょうか。それと、上辻曲さんのご要望を伺って、衣装の方も大筋、決めておきたいと思ってますので…」
「それじゃ君、上辻曲さんがお困りになるだろうから、こちらで5〜6点チョイスしておいて、直感でお選び頂くようにしてよ」ああそうそう、その方がこっちも助かる、って正直俺は思ったんだ。だって、ブック〇フやユニ〇ロで探してみて、俺ってそういうセンスないし、スタイルだってそんなカッコよくないしさ
「わかりました、それじゃあ今日はこれで失礼…」って、喋りかけたら、殿倉メインキャスターが慌てて
「いやいやいや、貴方とはまだお話が残ってますので、もう少しだけお時間くださいな」とか言う
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こんな話のプロと、サシで話しなんかしたら、なんでも引き受けさせられちゃいそうだと思った俺は、ちょっと強気に出ることにした
「お宅は知らんと思うけど、俺、超人だからさ、さっきのお宅さんたちの話は、ぜ〜んぶ聴こえちゃってたんだよね。ほら、三の線って三枚目のことでしょ。いくら素人でも、知ってるって、それくらい」って、かましてやった
「ほぉ〜、聴こえてたんだ。さすが超人だねぇ。そりゃあいいや、打ち合わせが楽になったってもんだね。
で、どう、上辻曲さんのご希望は?」全然びびってない。すごいな、この人、って正直思っちゃった
「そりゃあ俺は、イケメンじゃないから、牧じゅんみたいにやれないから…」人気グループのイケメンメンバーの顔を思い浮かべちゃって、俺としてはなんだか強くは言えなくなっちゃったんだよね
「野木崎くん、衣装の候補はもう出てるの?」後ろに立っているチーフDに、振り返りもしないで声をかける
「は、はい、ADの駒沢くんにリストアップを頼んでますので、もうすぐ持って来るはずです」
「オッケイ。じゃ、衣装は後で選んで頂くとして、上辻曲さんは元から超人だったんですか?それとも、よくある何かのきっかけで、超人になれたとか」鋭く的に当たった質問に、俺は瞬間的にパニクって、つい本当のことを言いそうになった
「それが、よく覚えてないんすよ。なにかピカーっと光ったような気がするんだけど、ぜ〜んぜん記憶無いんすよ」とりあえず、うまくごまかしちった
「そうか、覚えてないのか。いつくらいからなの、超人になったって意識したのは?」
「そうっすねぇ、ひと月くらい前かなぁ。なんだか力が溢れてるぞって思ったのは。それから、飛んでみたり走ってみたり、工事現場にあったユンボを持ち上げてみて、分かったんす。俺、超人になったって」ここらは、大体ほんとのことだな
「そうか、そのあたり、番組内でインタビューさせるんで、もう少しなにかエピソードみたいなもの、思い出しておいてもらえるかなぁ、ちょい地味だからね。いやいや、別に特に創らなくたっていいんだけどね」少し脚色してくれって、言ってるんだよな
「はい。で、今日はもう帰っていいんでしょうか」体は超人なんで、どこも痛くないんだけど、精神的には、結構やられてるって言うか、今頃になってあそこで、ぶっ飛ばした奴の様子とか、しっかり甦って来てるんだよね」
「そうか、じゃザキちゃん、次のスケジュール連絡先とか、しっかり打ち合わせといてね。それから、上辻曲さん、貴方、超人として、今やりたいことって、なんですか?」…やりたいこと?なんだろ
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少し前までなら、正義の味方です!とか答えたんだろうが、今、ちょっとそうじゃないんだよな
超人になったってことで、スポーツ選手はナッシングだし(…だって、なにやったって勝負にならんのは、いくら俺だってわかってるさ)
それ以外で超人が活きるのはガテン系くらいだし、まあSPとか、警察か自衛隊もいけそうだけど、映画とかでしか見たことないけど、上官とかが居て、規則とか規律とか、うるさそうだもんなぁ…
「なにか、世の中の悪を正そうとか、そういう希望はないのかな」黙ってたら、焦れたように殿倉さんがボソッと言った
「そうなんですよ、俺も最初はそう思ってたんすけど、さっき暴力団とか言われてるビルにアタックした時、あそこのラスボスみたいな人に会って、その人ケッコーしっかりした人で、なにが正しくてなにが悪なのか、よく分からなくなっちゃってるんですよ」ほんとのとこ、そーなんだ
ほう、と言うと殿倉さんは額に手を当てて、黙っちまった
俺もなんか言いたかったが、なんも言えんかった
「悩むことなんかないんじゃない」よく通る女の人の声がした
見ると、いつのまにかレイコさんが殿倉さんの後ろに立っている
「ねえ、殿倉さん、この方はちゃんと超人なんです。さっきも、わたしを椅子ごと持ち上げて、空中に浮かせてくれたんです。それだけでもう、超人だったわ。他の誰にも、絶対まねできない超人なんですよ」
「そうだな。そう、それでいけばいいか。なにをやってもらいたいか、なにができるのか、日本がそれでどう変われるのか、それがテーマってことでいい。そう、第一段階はそれだ」殿倉さんが顔を上げた
「あと、ですね、俺って有名になったら、どうなるんですかね」そう、一番疑問なとこ
「う〜ん、まあ有名になったら、女の子にもててもてて、仕方ないんだろうねぇ」にやにやしながら、ディレクターのザキさんが話に加わって来た
「女の子だけじゃなくて、僕らマスコミからもチヤホヤされるし、芸能界もほっとかんだろうなぁ。でも、君がそれを全部楽しめるかどうかは、君次第だろうけどね」殿倉さんが付け足す
「マネジメントをどこかに頼むのもいいけど、せっかく超人なんだから、普通人のルールなんて無視して、好きなようにやるって手もあるわよ。ただし、ウチとは内々に連絡取ってもらえるように、ってことだけど」
「それはいいんですけど、とりあえず俺、今日は帰ってゆっくり考えさせてもらいたいんですけど、いいですか?」はっきり言って、体力的には全然問題ないんだけど、精神的には疲れちまってるんだ俺
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「ええ、ああ、まあ、いいですよ、お帰りになっても。ただ、その格好じゃあ…。ザキさん、なにか彼に着替え用意してあげてくれる」
「はい。駒沢さん、駒沢さん、彼に着てもらえそうな衣装、あるかなー」
呼ばれて顔を覗かせたADの駒沢さんが、「なにかあると思います」と返事だけして、すぐ引っ込んだ
「すみません、ちょっとトイレに行っていいですか?」超人なんだけど、これは我慢できないんだよね
「ああ、どうぞ。ザキさん、案内してあげて」
ザキさんに案内されて、トイレに向かったんだけど、ちょっと気になる部屋があったりすると、つい視線がいっちまって、部屋の中が覗けちゃうんだ
耳だって、あんまり沢山の音が入ってくるんで、いちいち気にしないようにしてるけど、ところどころ興味を惹く言葉(アイドルのアイちゃんとか、人気女優のトッキーの名前とか)が聞こえてくるから、つい、ね
まあ、“見る”は、見ちゃいけなそうな方向は、向かないようにできるけど、耳は勝手にいろいろ入って来るから、しょうがない
トイレに入って、とにかく周りを見ないようにするのが結構大変で
ついつい見たくもないものが視野に飛び込んでくる
うっかり強めに見ると男子トイレの隣りのトイレまで見えそうであせっちまった
俺は別にそんなもの見たい趣味はないから、目をそらし強く見ないようにしたんで
結果的にこの超人の視力のコントロールを学べたってわけ
部屋に戻ると、もう殿倉さんもレイコさんも居なくなっていて
ADの駒沢さんが書面を持って待っていた
「すみません、こちらにサインをお願いできますか」えっ、サイン、もう俺のフアンかよ、って思ったけど
なんか違う。契約書みたい、ってか契約書って書いてある
文面がややこしそうなんで、よく読みもせず
「あっ、こういうのすぐサインとかハンコとかやるなって、死んだ親父が言ってたんで」って首を振った
「そうですか、ならお持ち帰り頂いても良いそうなので、ご納得頂けたらよろしくお願いします」と言うと、書面を大事そうにテレビ局の封筒に入れて、俺に手渡した
「それから、これどちらかお好きな方、どうぞ」と言って、青いジャージと赤いジャージをテーブルに置いた
あれ、これってお笑いコンビの衣装じゃぁ…?
でも、文句も言えないんで、青い方を手にした
持ってみると、結構いい生地で、俺の知ってるジャージとは大分違う
着てみると背が高くも低くもない俺にぴったりだ
下の方を履く間、向こうを見ていた駒沢さんが、嬉しそうな顔をして「思った通りぴったりでしたね」と言う
結構感じの良い笑顔に、俺も嬉しくなって、なんだか駒沢さんって可愛いとこあるな、って好感
「それじゃ、帰ります」と挨拶すると「殿倉さんが屋上からお帰り下さい、とのことでした」って言った
2020年05月27日
ランボー超人Bの物語―6 超人デビューA
posted by 熟年超人K at 17:18| Comment(0)
| 書き足しお気楽SF小説
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