黄色のマフラーを巻くと、なんか出演者気分になって、人からどう見えるのか気になってしまう
牧場経営の高松さんのお宅には、姿見なんて洒落たもんないんで、俺はトイレに行くような顔して部屋を出た
トイレに行く途中にある廊下の窓なら、中が明るくて外が暗いから、俺の姿が映るはずだと思ったんだ
デニムのシャツに黄色のマフラーをした俺は、昭和の映画スターみたいに見えるかも?
と、その俺の顔の横の闇の中をなにかの影が横切ったのを視た気がした
なんだったんだろうと、俺が今の場面を思い出そうとしたとき、驚いたことにその場面が頭の中に浮かび、ビデオをスローで再生するみたいに、その影が左から右に動いたのが見え、その影が大きな四足の動物だってことまで分かった(超人の知らんかった能力か!)
こいつぁヒグマだって確信したんだけど、荘田君たちに知らせる方がいいか、このまま戸外に出て影を追う方がいいか、ちょい迷ったけど「ヒグマが出たぞー!」って怒鳴っておいて、影を追うならキッチンのドアから飛び出そうって判断して、高速移動した
あせって動いたから、そこらじゅうにぶち当りそうになったけど、なんとかうまく走り抜けて、キッチンのドアを壊さずに瞬速で開けて、真っ暗な裏庭に飛び出した
下弦の一日前の月は、厚い雲に覆われてて、裏庭もその向こうにある牧場も真っ暗闇だけど、俺の目は、見ようって真剣になったら、赤外線カメラよりしっかり見えることがわかった
外に出たところで動きを止めて、周りの様子を探ることにした(おっちょこちょいの俺にしては珍しく冷静)
まず、耳を澄まして音を聴いてみた。結構いろんな音がしている。
母屋では、皆のがやがや喋っている声、椅子ががたんと鳴る音、食器がかちゃっと鳴る音、ドアが開いたり閉ったりする音…ずいぶん喧しい
そして、この牧場の周りに生えている木や草の葉の音。そして、牧場に集まっている牛たちの足を踏み換える音、鼻息、しっぽを振る音などが聴こえ…と、音のリズムが変った
足の踏み換える音がせわしなくなり、鼻息も荒くなり、耳に集中している俺の緊張感のレベルが一気に上がる
そこに、ふっふっふっ、という違う鼻息が加わった。俺にも牛の緊迫した状況が掴めた
「なにー!外に出てるんかーい」突然、間抜けな人の呼び声が割り込んで、牧場から聴こえていた音が消える
しーっ!って言いたいとこだけど、俺が声出したら、きっとヒグマは逃げちまう
そのとき名案が浮かんだ。宙に浮いて探せばいいんだ、って
早速、体を浮かそうとする。空に飛び上がるんじゃなくて、ふわっと体を浮き上がらせるんだ
ほんのちょっとだけ、足先に力を入れて、とん、って感じで体を浮き上がらせてみたら、ふわーっと上がった
10mくらいの高さで留まる積りだったけど、もう少し高くなっちまった
それでも、自転車でブレーキとペダルを同時に操作するみたいな調子で、15mくらいの高さで空中浮遊できた
牧場ってとこは、木も無いし、丈の高い草叢も無いから、空中からなら丸見えだ。おまけに俺の目は、暗闇でもしっかり見れるから、でかいヒグマらしき塊が、牧場の横の作業小屋の陰に潜んでるのも丸わかりだ
2023年03月26日
2023年03月20日
ランボー超人Bの物語-19 超人パワーでGo!C
「琵琶瀬展望台ってとこまで走って、そこで休憩にしようと思います」って荘田君が言うんで、昨日の道を空からの伴走付きで走ってもらったんだけど、残念ながらヒグマは出ず
この道は観光道路っぽくて、初めのうちは山の中みたいになんだけど、途中から海沿いを走る感じになる
全体的に明るくて、とても熊が出るような雰囲気はないんだ
潮風に吹かれながら、荘田君が一生懸命走ってる様子を、3〜400mくらいの高さから(熊は出ないし、観光客らしき車がそこそこ走ってるから)眺めていて、俺はなにしてんだろ、ってぼんやり考えてた
進む方に何棟か建物が見えるんで、お先にって感じでそっちに先回りして、ちょうど誰もいないんで、長方形の建物の屋上が展望台ちゃあ展望台らしく見えるんで、そこに降りて待つことにした
しばらくすると、ふうふう言って荘田君が屋上に上がって来て「なぁ〜んもいませんね、ヒグマ」ってぼやいた
「どーする、まだこの先まで行く?」って訊くと、「どうしましょう。知床の方に行けば、結構な確率で出会えるらしいんですが、別になんの悪さもしてないみたいで、平和に暮らしてる熊たちを、超人ランボーがいじめてるみたいになりそうなんで、どうも…」って、もやっとした言い方になってる
「ただ、ここから近くの標茶町に、凄いのが出るらしいんで、そっちに行ってみましょうか」
それならってことで、床澤受信所に置きっ放しの自転車を、俺が伊藤旅館に返してから、ここで待ってる荘田君を自転車ごと持って、高度1000mくらいで飛ぼうか、って話になった
荘田君の方も、なんにもしないで待ってる訳じゃなくって、ちゃんといろいろ連絡取って(こっちの系列局に手伝ってもらい)、最近そのヒグマに、飼ってる牛をやられた牧場主さんを、訪ねられるようにしておくことになった
俺は、コスチュームが破れちゃったんで、私服(デニムの上下だけど超人なんで寒くはない)のまま、自転車に乗ってる荘田君の両脇に手を入れてそのまま持ち上げ、荘田君が見るスマホのマップ頼りに、その牧場目指すってことになった
ここ(諏訪瀬展望台)からの距離は、大体北西に50q弱くらいだから、30分もあれば行けそうだ
さすがに、自転車に乗ってる人を持って、私服の俺が空を飛んでいたらニュースでしょ、って荘田君が言うんで、人に見られないよう1000mくらいの高さで、なるべく森になってるところを選んで、標茶町の高松さんの牧場まで飛ぼうって決めた
結局、何人かに空飛ぶ自転車は見つかったみたいだけど、そこらは後の編集でなんとかなるさで強行
どうにかお目当ての牧場に着いたのは、まだ明るい午後3時ちょっと前だった
諏訪瀬展望台で伊藤旅館さんに作ってもらったおにぎりと、PETボトルのお茶の昼飯しか食べてないから、随分働かされてる俺は、もう腹が減り始めてる
それでも牧場主の高松さん夫婦はすごくいい人で、「よう来さったなぁ。なまら大変だったんでないかい」とか、北海道弁で話しかけてくれる
俺は一応ゲスト扱いっていうことで、荘田君が「こちらはこんな格好ですが、超人ランボーさんでして…」って、二人に紹介してくれるんけど、どうもこっちでは全然有名じゃないみたいで「…??」みたいな反応
ただ、地元の系列テレビ局の名を出すと、ああそうみたいな反応はある
お二人から詳しく話しを聞いていくうち、OSOと呼んでいるでかいヒグマが、夜のうちに、牛を襲って食べるんで、本当に困ってるのが分かった
「じゃあ、今夜僕らはここに待機して、そいつが出たら、超人ランボーさんがやっつけてやりますよ」って、荘田君が胸を叩く(俺は喋らず黙って立ってるだけ)
「でも、この人、本当にスー○ーマンなの?」奥さんが心配そうに言うんで、俺は外に置いてあるトラクターを持って、牧場の上をぐるっと回ってやった(論より証拠っていうやつ)
「ありゃ〜、こら、びっくらこいただべさぁ」って、夫婦でハモったのに俺らも受けて、表にあった薪用の丸木を手刀でぽんぽん割ってあげると、一気に信用されるようになった
「これなら、ヒグマ出てもなぁんもだべな」って、またご夫婦でハモってくれる
夜を待つ前に、北海道名物“ジンギスカン”をご馳走になってると、北海道の系列局の取材班が6人やって来て、一気に賑やかになり、荘田君なんか、ビール飲んで大分ご機嫌になってしまう
俺は、超人なんで酔うとかほとんどないんだけど、やっぱりなんか調子良くなるんだよな
とは言っても、酒盛りに来たわけじゃないんで、地元系列局のスタッフは10時過ぎるとしゃきっとして「そろそろ行きますか?」とか訊いてくる
さすがに荘田君も、酔いが覚めて手持ちカメラのチェックを始める
俺はって言うと「特に用意するものもないんだけど、このデニムの服も破かれたらいやだな」とか、ついグチると、地元局の女性スタッフさんが「終わったらこっちで繕いしますよ」って言ってくれた
それで俺も元気が出て、「じゃ、俺、この辺り飛んで、熊ヤローがいるか探しに行ってきます」って飛び上がりかけると、地元局のディレクターが「ちょっと、その格好じゃ夜空に紛れちゃうんじゃないかい」って、大きな声でストップをかける(荘田君は他人事みたいにそれもそうだな、とか言うだけ)
それから、じゃあどうするってなって、地元局の女性スタッフと、高松さんの奥さんとで黄色のスカーフ持って来て「せめて、これを首に巻いてください」ってなった
この道は観光道路っぽくて、初めのうちは山の中みたいになんだけど、途中から海沿いを走る感じになる
全体的に明るくて、とても熊が出るような雰囲気はないんだ
潮風に吹かれながら、荘田君が一生懸命走ってる様子を、3〜400mくらいの高さから(熊は出ないし、観光客らしき車がそこそこ走ってるから)眺めていて、俺はなにしてんだろ、ってぼんやり考えてた
進む方に何棟か建物が見えるんで、お先にって感じでそっちに先回りして、ちょうど誰もいないんで、長方形の建物の屋上が展望台ちゃあ展望台らしく見えるんで、そこに降りて待つことにした
しばらくすると、ふうふう言って荘田君が屋上に上がって来て「なぁ〜んもいませんね、ヒグマ」ってぼやいた
「どーする、まだこの先まで行く?」って訊くと、「どうしましょう。知床の方に行けば、結構な確率で出会えるらしいんですが、別になんの悪さもしてないみたいで、平和に暮らしてる熊たちを、超人ランボーがいじめてるみたいになりそうなんで、どうも…」って、もやっとした言い方になってる
「ただ、ここから近くの標茶町に、凄いのが出るらしいんで、そっちに行ってみましょうか」
それならってことで、床澤受信所に置きっ放しの自転車を、俺が伊藤旅館に返してから、ここで待ってる荘田君を自転車ごと持って、高度1000mくらいで飛ぼうか、って話になった
荘田君の方も、なんにもしないで待ってる訳じゃなくって、ちゃんといろいろ連絡取って(こっちの系列局に手伝ってもらい)、最近そのヒグマに、飼ってる牛をやられた牧場主さんを、訪ねられるようにしておくことになった
俺は、コスチュームが破れちゃったんで、私服(デニムの上下だけど超人なんで寒くはない)のまま、自転車に乗ってる荘田君の両脇に手を入れてそのまま持ち上げ、荘田君が見るスマホのマップ頼りに、その牧場目指すってことになった
ここ(諏訪瀬展望台)からの距離は、大体北西に50q弱くらいだから、30分もあれば行けそうだ
さすがに、自転車に乗ってる人を持って、私服の俺が空を飛んでいたらニュースでしょ、って荘田君が言うんで、人に見られないよう1000mくらいの高さで、なるべく森になってるところを選んで、標茶町の高松さんの牧場まで飛ぼうって決めた
結局、何人かに空飛ぶ自転車は見つかったみたいだけど、そこらは後の編集でなんとかなるさで強行
どうにかお目当ての牧場に着いたのは、まだ明るい午後3時ちょっと前だった
諏訪瀬展望台で伊藤旅館さんに作ってもらったおにぎりと、PETボトルのお茶の昼飯しか食べてないから、随分働かされてる俺は、もう腹が減り始めてる
それでも牧場主の高松さん夫婦はすごくいい人で、「よう来さったなぁ。なまら大変だったんでないかい」とか、北海道弁で話しかけてくれる
俺は一応ゲスト扱いっていうことで、荘田君が「こちらはこんな格好ですが、超人ランボーさんでして…」って、二人に紹介してくれるんけど、どうもこっちでは全然有名じゃないみたいで「…??」みたいな反応
ただ、地元の系列テレビ局の名を出すと、ああそうみたいな反応はある
お二人から詳しく話しを聞いていくうち、OSOと呼んでいるでかいヒグマが、夜のうちに、牛を襲って食べるんで、本当に困ってるのが分かった
「じゃあ、今夜僕らはここに待機して、そいつが出たら、超人ランボーさんがやっつけてやりますよ」って、荘田君が胸を叩く(俺は喋らず黙って立ってるだけ)
「でも、この人、本当にスー○ーマンなの?」奥さんが心配そうに言うんで、俺は外に置いてあるトラクターを持って、牧場の上をぐるっと回ってやった(論より証拠っていうやつ)
「ありゃ〜、こら、びっくらこいただべさぁ」って、夫婦でハモったのに俺らも受けて、表にあった薪用の丸木を手刀でぽんぽん割ってあげると、一気に信用されるようになった
「これなら、ヒグマ出てもなぁんもだべな」って、またご夫婦でハモってくれる
夜を待つ前に、北海道名物“ジンギスカン”をご馳走になってると、北海道の系列局の取材班が6人やって来て、一気に賑やかになり、荘田君なんか、ビール飲んで大分ご機嫌になってしまう
俺は、超人なんで酔うとかほとんどないんだけど、やっぱりなんか調子良くなるんだよな
とは言っても、酒盛りに来たわけじゃないんで、地元系列局のスタッフは10時過ぎるとしゃきっとして「そろそろ行きますか?」とか訊いてくる
さすがに荘田君も、酔いが覚めて手持ちカメラのチェックを始める
俺はって言うと「特に用意するものもないんだけど、このデニムの服も破かれたらいやだな」とか、ついグチると、地元局の女性スタッフさんが「終わったらこっちで繕いしますよ」って言ってくれた
それで俺も元気が出て、「じゃ、俺、この辺り飛んで、熊ヤローがいるか探しに行ってきます」って飛び上がりかけると、地元局のディレクターが「ちょっと、その格好じゃ夜空に紛れちゃうんじゃないかい」って、大きな声でストップをかける(荘田君は他人事みたいにそれもそうだな、とか言うだけ)
それから、じゃあどうするってなって、地元局の女性スタッフと、高松さんの奥さんとで黄色のスカーフ持って来て「せめて、これを首に巻いてください」ってなった
2023年03月11日
ランボー超人Bの物語-19 超人パワーでGo!B
がつっん!っと手応えがあった
大体、今まで全力パンチなんて打ち込んだことないんで、ヒグマがどうなっちゃうかなんて、考えないでやったんだけど、大きく後ろに吹っ飛んで、そのままごろごろっと転がって、慌てて起き上がると逃げて行く
人間だったら絶対立ち上がれっこない衝撃でも、野生の熊は平気なんだ、って俺は感心してた
「すごいっすねぇ、猪のときよりぶっ飛んじゃったじゃないっすかんじゃったじゃないっすか。体の大きさとか重さは3〜4倍ありそうだから、ランボーさんもパワーアップして、打ったんですね」荘田君が興奮して、喋ってる
「結構、全開パワーだったんだけど、粉々っていう訳にはいかないもんだねぇ」なんか、少し拍子抜けな俺
「ああーっ!あんまり突然だったんで、撮れてない!」荘田君が悲鳴をあげた
「撮ってなかったのかぁ〜」「すんません、次のやつは絶対撮りますんで」荘田君がぺこぺこ頭を下げる
陽もそろそろ落ちかかって来たんで、とにかく今夜の宿泊先の『丸イ伊藤旅館』に戻ることにした
超人ランボーのコスチュームがヒグマに破られちゃったんで、しょうがないから中の人状態になって、荘田君と二人で旅館に入っていった
旅館、と言っても民宿レベルの宿だったが、夕食はかき料理がメインで、あと煮魚とかいろいろあって、魚介好きの俺は大満足。荘田君はかきが苦手で(子どもの頃当ったらしい)、ヒグマやっつけたり飛んだりした俺は、ばり腹減り状態だったんで、旅館の女の人が驚くくらいご飯も、おかずも平らげて満足
宿泊費は局持ちだから、荘田君も刺身とか追加注文して、よく食った
寝る前に、明日も同じコースを、ずっと先の原生花園の方まで行ってみよう、って決まったところで荘田君はダウン、俺も珍しくぐっすり寝てしまった
朝は、旅館の人に起こされて(昨夜、酔っ払う前に荘田君が頼んだらしい)7時に起きて、食堂で朝飯食べたら出発だ
荘田君だけ自転車で、俺は歩きみたいで可哀相だからって、旅館でレンタサイクル頼んでくれて、俺もマウンテンバイクみたいなタイヤのぶっといのに跨って、荘田君の後に続いた
とは言っても、周りに人の目がなくなったとこで俺は自転車持って、高度500mくらいまで上がると、猛スピードで荘田君がサイクリングするコースを先回りして、床澤受信所っていうパラボラアンテナが付いてる鉄塔のとこに自転車を置いて(まだ本格シーズン前なんで人はいない)、こんどはヒグマのチェックも兼ねて、100mくらいの高さを、自動車くらいのスピードでのんびり戻る
その間に荘田君は、一生懸命走って“子野日公園”に着いていた
俺が、公園駐車所にいる荘田君の前に降りると「自転車、置いて来たんすね。勇太郎さんに空から見張っててもらわないと、怖くて」って、本当にほっとした顔をする
「こっちに戻って来る途中では、熊の姿は全然見えなかったよ」って言うと「今日は出ないのかなぁ」って、急に弱気になっちゃう荘田君
夕べも「カメラ回せなかったなんて、絶対許されませんから、明日は必ず出るように祈ってくださいよ!」って、何度も言ってたよな(俺的には責任無いんだけど、やっぱそうは言えないもんね)
大体、今まで全力パンチなんて打ち込んだことないんで、ヒグマがどうなっちゃうかなんて、考えないでやったんだけど、大きく後ろに吹っ飛んで、そのままごろごろっと転がって、慌てて起き上がると逃げて行く
人間だったら絶対立ち上がれっこない衝撃でも、野生の熊は平気なんだ、って俺は感心してた
「すごいっすねぇ、猪のときよりぶっ飛んじゃったじゃないっすかんじゃったじゃないっすか。体の大きさとか重さは3〜4倍ありそうだから、ランボーさんもパワーアップして、打ったんですね」荘田君が興奮して、喋ってる
「結構、全開パワーだったんだけど、粉々っていう訳にはいかないもんだねぇ」なんか、少し拍子抜けな俺
「ああーっ!あんまり突然だったんで、撮れてない!」荘田君が悲鳴をあげた
「撮ってなかったのかぁ〜」「すんません、次のやつは絶対撮りますんで」荘田君がぺこぺこ頭を下げる
陽もそろそろ落ちかかって来たんで、とにかく今夜の宿泊先の『丸イ伊藤旅館』に戻ることにした
超人ランボーのコスチュームがヒグマに破られちゃったんで、しょうがないから中の人状態になって、荘田君と二人で旅館に入っていった
旅館、と言っても民宿レベルの宿だったが、夕食はかき料理がメインで、あと煮魚とかいろいろあって、魚介好きの俺は大満足。荘田君はかきが苦手で(子どもの頃当ったらしい)、ヒグマやっつけたり飛んだりした俺は、ばり腹減り状態だったんで、旅館の女の人が驚くくらいご飯も、おかずも平らげて満足
宿泊費は局持ちだから、荘田君も刺身とか追加注文して、よく食った
寝る前に、明日も同じコースを、ずっと先の原生花園の方まで行ってみよう、って決まったところで荘田君はダウン、俺も珍しくぐっすり寝てしまった
朝は、旅館の人に起こされて(昨夜、酔っ払う前に荘田君が頼んだらしい)7時に起きて、食堂で朝飯食べたら出発だ
荘田君だけ自転車で、俺は歩きみたいで可哀相だからって、旅館でレンタサイクル頼んでくれて、俺もマウンテンバイクみたいなタイヤのぶっといのに跨って、荘田君の後に続いた
とは言っても、周りに人の目がなくなったとこで俺は自転車持って、高度500mくらいまで上がると、猛スピードで荘田君がサイクリングするコースを先回りして、床澤受信所っていうパラボラアンテナが付いてる鉄塔のとこに自転車を置いて(まだ本格シーズン前なんで人はいない)、こんどはヒグマのチェックも兼ねて、100mくらいの高さを、自動車くらいのスピードでのんびり戻る
その間に荘田君は、一生懸命走って“子野日公園”に着いていた
俺が、公園駐車所にいる荘田君の前に降りると「自転車、置いて来たんすね。勇太郎さんに空から見張っててもらわないと、怖くて」って、本当にほっとした顔をする
「こっちに戻って来る途中では、熊の姿は全然見えなかったよ」って言うと「今日は出ないのかなぁ」って、急に弱気になっちゃう荘田君
夕べも「カメラ回せなかったなんて、絶対許されませんから、明日は必ず出るように祈ってくださいよ!」って、何度も言ってたよな(俺的には責任無いんだけど、やっぱそうは言えないもんね)
2023年03月06日
ランボー超人Bの物語-19 超人パワーでGo!A
事前に厚岸町の町役場に荘田君が問い合わせたときには、厚岸町をサイクリングするなら桜が咲く5月がお勧めですよ、と言われたらしいけど、番組の都合もあってそうも言ってらんない、ってことで、そろそろ冬眠明けの熊が出るタイミング狙いで、走ることになった訳だ
俺の方は、50mくらいの高さで空中を伴走することにしたビルの高さなら15階くらい、公園道路の両側にある木々の梢よりも、ちょっと高いくらいの低空だ(別に人に見られてもいいってことで)
シナリオでは、石狩市に住んでいる母方の祖父を訪ねて北海道に来た荘田君が、札幌市に立寄ると、偶然北海道のヒグマ退治に来ていた俺を見つけて、休暇の残りを使ってヒグマ退治を手伝うことになったというものだ
それがホテル・ラフィナーレで、二人が会ったところで、ちょうど挨拶に寄ったTテレ系のHテレビのディレクターが、スマホに収めていたという、仕込み感満載の出会いシーンになっている
それは置いといて、まだ残雪も所々ある傾斜の緩い舗装道路を、荘田君がゆっくり走っているんだけど、少し先の道端のフキらしい葉っぱを踏んづけて、大きな赤茶色の熊がなにやら地面を掘り返すようにしてるのが、見える
早速、低空飛行に移って、一生懸命ペダルを漕いでいる荘田君の耳元に「おい、いるぞ!この先、ヒグマ居るぞ!」って、大声で警告してやった
急に近くで怒鳴られたもんで、荘田君はびっくりして、慌てて自転車を停めようとして、どーんと横倒しになっちまった
200mくらい先にいた熊が、動きを止めて鼻先を空に向けて、くんくん匂いを嗅ぎ始めた
こっちに気が付いたら、逃げ出すか襲ってくるかの二択だな、って思った俺は、荘田君とヒグマの間に降り立って様子を見ることにした(このときの俺は自信満々状態だ)
次の瞬間、どーんっと来た!でかいヒグマが体当たり、っていうか、ちょっと立ったんで肩口当りにがぶっときた
その瞬間はやっぱり俺も人間、超人の目で見てるんで、がぁーって開けた口の中に黄色い牙とピンクの舌と、よだれみたいなぐちゃっとしたのがあふれてるのが見えて、ついつい身体硬直しーの、髪の毛逆立つみたいな反応が起きちまって、すぐに体勢立て直そうって思ったんだけど、でかいは重いは早いはで、真後ろに吹っ飛ばされちまった
それ見てた荘田君は、あーもうだめだぁ!って思ったらしい(後で聞いた)
まあ、結論から言うと、後ろにはなんにもなかったし、フキの葉が群生してるとこだったんで、真後ろに飛ばされて、その勢いでくるっと立てた
Tテレからもらったコスチュームは大分破れちゃったけど、中の俺は超人だから、大してダメージはない
それより、びっくりしたのはヒグマの方で、平気で立ってる俺に戸惑ってるのがわかる
さあ、俺の番だぞってダッシュ(超人になってからスピード上げ過ぎないよう気を付けてたんで、初!)で、ヒグマに猛接近。鼻っ面に全力パンチをぶち込んだ
俺の方は、50mくらいの高さで空中を伴走することにしたビルの高さなら15階くらい、公園道路の両側にある木々の梢よりも、ちょっと高いくらいの低空だ(別に人に見られてもいいってことで)
シナリオでは、石狩市に住んでいる母方の祖父を訪ねて北海道に来た荘田君が、札幌市に立寄ると、偶然北海道のヒグマ退治に来ていた俺を見つけて、休暇の残りを使ってヒグマ退治を手伝うことになったというものだ
それがホテル・ラフィナーレで、二人が会ったところで、ちょうど挨拶に寄ったTテレ系のHテレビのディレクターが、スマホに収めていたという、仕込み感満載の出会いシーンになっている
それは置いといて、まだ残雪も所々ある傾斜の緩い舗装道路を、荘田君がゆっくり走っているんだけど、少し先の道端のフキらしい葉っぱを踏んづけて、大きな赤茶色の熊がなにやら地面を掘り返すようにしてるのが、見える
早速、低空飛行に移って、一生懸命ペダルを漕いでいる荘田君の耳元に「おい、いるぞ!この先、ヒグマ居るぞ!」って、大声で警告してやった
急に近くで怒鳴られたもんで、荘田君はびっくりして、慌てて自転車を停めようとして、どーんと横倒しになっちまった
200mくらい先にいた熊が、動きを止めて鼻先を空に向けて、くんくん匂いを嗅ぎ始めた
こっちに気が付いたら、逃げ出すか襲ってくるかの二択だな、って思った俺は、荘田君とヒグマの間に降り立って様子を見ることにした(このときの俺は自信満々状態だ)
次の瞬間、どーんっと来た!でかいヒグマが体当たり、っていうか、ちょっと立ったんで肩口当りにがぶっときた
その瞬間はやっぱり俺も人間、超人の目で見てるんで、がぁーって開けた口の中に黄色い牙とピンクの舌と、よだれみたいなぐちゃっとしたのがあふれてるのが見えて、ついつい身体硬直しーの、髪の毛逆立つみたいな反応が起きちまって、すぐに体勢立て直そうって思ったんだけど、でかいは重いは早いはで、真後ろに吹っ飛ばされちまった
それ見てた荘田君は、あーもうだめだぁ!って思ったらしい(後で聞いた)
まあ、結論から言うと、後ろにはなんにもなかったし、フキの葉が群生してるとこだったんで、真後ろに飛ばされて、その勢いでくるっと立てた
Tテレからもらったコスチュームは大分破れちゃったけど、中の俺は超人だから、大してダメージはない
それより、びっくりしたのはヒグマの方で、平気で立ってる俺に戸惑ってるのがわかる
さあ、俺の番だぞってダッシュ(超人になってからスピード上げ過ぎないよう気を付けてたんで、初!)で、ヒグマに猛接近。鼻っ面に全力パンチをぶち込んだ
2023年03月02日
ランボー超人Bの物語-19 超人パワーでGo!@
『ひぐまっぷ』っていうのは、前年から最近までにヒグマ(らしきもの)を視認したという通報を、地図上に書き込んだマップだ
それによると、これから行こうとしてる厚岸町の前の厚岸湖は、一部が外洋と繋がっていて、そこに架かっている橋の向こう側に“厚岸緑のふるさと公園”と“厚岸子野日公園”があり、そこに出没マークが多くある
もちろん、札幌市にもマークは付いているが、都会なんでどっちかと言えば出会える確率は低いだろうと、意見が一致したんで、まず厚岸町に行ってみよう、ってなった
Gマップで荘田君がチェックすると、札幌市からほぼほぼ真西に直線で280qちょっと飛べば厚岸町に着くらしい
「じゃあ、時速300qくらいで飛んでいいかな」って、荘田君に訊くと「150qくらいにしてください」って言う
この前の神戸行きで、大分要領が掴めたみたいで、北海道の気温と荘田君の装備(やや厚手のダウンコート)を考えると、それくらいが限界だと思うと力説する(…高度にも依るだろうし)んで、じゃあそれでってなった
「あとですねぇ、僕のアシなんですが、ネットで探したら釧路市にレンタサイクル屋があるんで、そこに寄ってもらえます?」なんでも、厚岸町の先に“原生花園”っていう観光名所があるんで、レンタサイクルが多いらしい。どっちみち、荘田君をずっと抱いて飛んでる訳にもいかんし、その方がいいなってなった
(それに、ヒグマと遭遇するのに歩いてるより自転車くらいの機動力が必要だろう、ってこと)
ということで、時速150q、2時間弱で釧路に着けそうだなったんだけど「ちょ、ちょっと待ってください。真直ぐ西に飛ぶと、日高山脈ってのがあるんすよ」それが?って訊くと、高そうな山だと2千m近くあるらしい
「俺は構わんけど」って答えると「構うの僕の方っす、やばくないかなぁ…」ちょっとびびってる
まあジェット機じゃないんで、高い山は避けるから、みたいな話になって、とにかく出発することになった
「あと、高度100m上がると1度下がるらしいっす。雲があればそんなに下がらないらしいんですけど」っていうことは、今、8度くらいだから800mから1000mの高度で飛ぶと、大体0度ってとこかなって二人で笑い合う
今回は、リュック背負った荘田君を後ろから抱え込んで、ホテル屋上から飛び立った(まず人目がない)
そこから2時間ほど掛けて(荘田君のスマホの磁石が役に立った)、厚岸町の手前にある釧路市に3時ころ到着
JRの駅は割とすぐ分かって、20分くらいで荘田君がサイクリング自転車で、颯爽と帰って来た
「タンデムバイクがあったらよかったんですが、このタイプしかなかったんで…」なんか申し訳なさそうな荘田君だったけど、俺の作戦では、サイクリングしている荘田君をエサにして、俺が上空からヒグマを見つけるっていうストーリーだったから、別に構わなかった
後は、人目が無いところ(まだシーズンのハシリなんで人は少ない)で、後ろから荘田君ごと自転車を持って、飛べばよかった
あまり高く飛べないんで、誰かに見られる心配もあったけど、番組的には別に見られてもいいって言うんで、お構いなしに自転車と一体の荘田君を持って飛ぶ
厚岸町はすぐ近くで、厚岸湖と外洋の境にある橋のたもとに降ろして、まずはお試しで“厚岸子野日公園”の道路を、今夜の宿『霧多布村』目指してサイクリングしてもらう
俺の方は、100mくらいの上空から、走る荘田君を見下ろしながら、結構立派な観光道路の両側の林に、ヒグマが見えないか探しながら飛ぶって訳だ
「今日は練習みたいなもんで、明日が本番ですから」って、荘田君が元気に走り出した
それによると、これから行こうとしてる厚岸町の前の厚岸湖は、一部が外洋と繋がっていて、そこに架かっている橋の向こう側に“厚岸緑のふるさと公園”と“厚岸子野日公園”があり、そこに出没マークが多くある
もちろん、札幌市にもマークは付いているが、都会なんでどっちかと言えば出会える確率は低いだろうと、意見が一致したんで、まず厚岸町に行ってみよう、ってなった
Gマップで荘田君がチェックすると、札幌市からほぼほぼ真西に直線で280qちょっと飛べば厚岸町に着くらしい
「じゃあ、時速300qくらいで飛んでいいかな」って、荘田君に訊くと「150qくらいにしてください」って言う
この前の神戸行きで、大分要領が掴めたみたいで、北海道の気温と荘田君の装備(やや厚手のダウンコート)を考えると、それくらいが限界だと思うと力説する(…高度にも依るだろうし)んで、じゃあそれでってなった
「あとですねぇ、僕のアシなんですが、ネットで探したら釧路市にレンタサイクル屋があるんで、そこに寄ってもらえます?」なんでも、厚岸町の先に“原生花園”っていう観光名所があるんで、レンタサイクルが多いらしい。どっちみち、荘田君をずっと抱いて飛んでる訳にもいかんし、その方がいいなってなった
(それに、ヒグマと遭遇するのに歩いてるより自転車くらいの機動力が必要だろう、ってこと)
ということで、時速150q、2時間弱で釧路に着けそうだなったんだけど「ちょ、ちょっと待ってください。真直ぐ西に飛ぶと、日高山脈ってのがあるんすよ」それが?って訊くと、高そうな山だと2千m近くあるらしい
「俺は構わんけど」って答えると「構うの僕の方っす、やばくないかなぁ…」ちょっとびびってる
まあジェット機じゃないんで、高い山は避けるから、みたいな話になって、とにかく出発することになった
「あと、高度100m上がると1度下がるらしいっす。雲があればそんなに下がらないらしいんですけど」っていうことは、今、8度くらいだから800mから1000mの高度で飛ぶと、大体0度ってとこかなって二人で笑い合う
今回は、リュック背負った荘田君を後ろから抱え込んで、ホテル屋上から飛び立った(まず人目がない)
そこから2時間ほど掛けて(荘田君のスマホの磁石が役に立った)、厚岸町の手前にある釧路市に3時ころ到着
JRの駅は割とすぐ分かって、20分くらいで荘田君がサイクリング自転車で、颯爽と帰って来た
「タンデムバイクがあったらよかったんですが、このタイプしかなかったんで…」なんか申し訳なさそうな荘田君だったけど、俺の作戦では、サイクリングしている荘田君をエサにして、俺が上空からヒグマを見つけるっていうストーリーだったから、別に構わなかった
後は、人目が無いところ(まだシーズンのハシリなんで人は少ない)で、後ろから荘田君ごと自転車を持って、飛べばよかった
あまり高く飛べないんで、誰かに見られる心配もあったけど、番組的には別に見られてもいいって言うんで、お構いなしに自転車と一体の荘田君を持って飛ぶ
厚岸町はすぐ近くで、厚岸湖と外洋の境にある橋のたもとに降ろして、まずはお試しで“厚岸子野日公園”の道路を、今夜の宿『霧多布村』目指してサイクリングしてもらう
俺の方は、100mくらいの上空から、走る荘田君を見下ろしながら、結構立派な観光道路の両側の林に、ヒグマが見えないか探しながら飛ぶって訳だ
「今日は練習みたいなもんで、明日が本番ですから」って、荘田君が元気に走り出した