なんかもう、隠さなくってもいいみたいな気になっちゃってるから、平気でどんどん空を飛べちゃう
正体だってばれてもいいか、って思うんだけど、さすがにまんまの俺じゃまずい気がする
まあ、徐々に知ってる人が増えるのはしょうがないな
それは芸能人と同じ感覚かも。人に、わあわあ言われるのって、気分いいこともあるし、めんどくさいときもあるしな
なんて、マンションから音楽事務所のある東麻布まで飛んで行く間、ほわっと考えてた
マンションから、ほぼ真西に東京タワーを目指して飛んで、その手前の首都高が交差して三角形になっている処で地上に降りた
やっぱりど派手な超人ランボーのコスチュームの威力は抜群で、ちょうど歩いていたカップルが立ち止る。走っている車がスピードを落とす
音楽事務所が入っているビルは、10階建てくらいの細いお洒落なビルで、何階にあるのかまではネットで分からなかったんで、入口脇の入居者名が書いてある看板で確認して、ビル内に入る
俺も大分慣れたな、このカッコ(入口のガラス戸に映る自分の姿)
エレベーターで8階に上がる。扉が開くと正面にガラスの衝立みたいな仕切りがあって、音楽事務所の英文字のロゴが書かれている
そのガラスの仕切りの前に、洒落た電話台があって、白に金色の電話が置いてあって[事務所に御用の方は内線12におかけ下さい]と書いたプレートが、閉じたドアに貼ってある
なんかお洒落っぽいが、面倒臭いなって思ったんだけど、しょうがないから受話器を取った。…たら「はい、なにかご用でしょうか」って、女の人の声がした
「あ、はい、ブルードラゴンズのマミさんにお会いしたいんですが…」「どちらさまでしょうか?」みたいな、会話にならない会話になった
「俺、超人ランボーって言いますが、先日、Nテレでマミさんに会ったんですが、少し訊きたいことがあるんで…」「……。恐れ入ります、只今は事務所におりませんので…」
何度も言うけど俺は超人なんで、ドアが閉まってても、部屋の中は相当見えてるし、声も聴こえてる
だから、ロックバンドっぽい五人組の中に、女の子が一人いるのも分かってる
その娘に「超人ランボーって貴女知らないよね。なんか変なフアンみたいだから、留守ってことにするからね」って、年上の女の人の声が話しかけて、女の子が「えーっ、マミの知ってるランボーさんかも〜」って言ったのも聴こえてる
「どうしても話があるんで、ここ開けてくれないと、ぶち破りますよー」ちょっと脅したった
ちょっと、部屋の中がしんとしたと思ったら、がちゃっとドア開いて、この前の女の子が顔を出した
「あー、やっぱり超人ランボーさんだぁ。山下さん、大丈夫だよ、この前Nテレさんでマミ会ってるから」
「超人ランボーって、あの首都高で衝突した車から人を助けた、あのランボーさん!?」後ろから、半分金色、半分銀色に染めた髪の毛を、ヤマアラシみたいにつんつんさせた、革ジャンの背の高い痩せた男が顔を出した
「あっ、ランボーさん、この人、リーダーの竜崎くん」「まあ、戸口ではなんですから、中にお入り下さい。すみません、最近、変なフアンの人が押しかけて来たりするもんですから、失礼しました」バブル時代みたいな、青い肩パット入りスーツのちょいケバの女の人が、無口な感じの竜崎くんが口を開く前に喋り出した