お屋敷から、また車に乗せてもらって、なんにも口をきかない運転手の後姿見てるうちに、なんか、段々むしゃくしゃしてきた
よく考えたら、別に超法規とか、してもらわなくっても、俺は超人だから自由にやれるじゃん、っていう考えになって、あの黒沢とか言う元大臣に、ごちゃごちゃ言われたのが、マジ腹立って来た
大体、いつだって俺は、ワルが相手でも殺さんように気を遣ってたし、一般の人が困ってるときは、特に慎重にやってきた。それなのに、いかにもお前に教えてやるぞ、みたいな言い方してきたことが怒れる
で、この車に乗せてもらってるのも癪に障ってきたんで「すんません、俺、飛んで帰るんで、ここらで下してください」って、だんまり運転手に言ってやった
突然、車が停まって「どうぞ」って運転手がそっけなく言う。どこら辺に停まったのか、よく分からんかったけど、俺は黙って降りた。車は、そのまま行っちまう
どうせどこに置いてかれても、空に上がればなんてことないんで、宙に浮いてゆっくり高度を上げてった
上りながら下界をチェックしてくと、広い河川敷のある川、多摩川が分かった。川に沿ってどんどん下流に行けば、いつかは東京湾の前に羽田空港があるはず。ついでに、航空管制に引っかかるか試すのも面白そう
俺は余裕で、そのプラン通りに飛んでいく
まあ、俺には航空管制の無線なんて付いてないから、どんな騒ぎになってるかなんて、関係ない
さすがに、羽田空港は着く前に、遠目でも確認できたんで、そこから北に向かってマンションまで一直線
部屋に戻ると、なんか腹が減ってるのに気が付いた。冷蔵庫の中は、ほぼ空なので近所のコンビニで、弁当3つと缶ビール買って又、部屋に戻る
あっという間に弁当2個を食べ切って、最後の1個にかかる前に、スマホに電話が入った。成森さんだ
「おい、SIT辞めちまったってほんとか?」「ええ、人事課の人に言われたんで、そういうことにしました」
「課長は、なにか言ったか?」「俺の判断なら仕方ない、みたいな感じですかね」そうは言ってなかったけど、まあ大体そんなニュアンスもあったから、そう言っといた
成森さんは、しばらく黙った後「課長のとこにもいろいろ言ってきたみたいだったからなぁ…」って言って、それから、なにか困ったことあったら、あんまり力にはなれないけど、俺に相談してくれ、さっきは会議中で申し訳なかった、みたいなこと言って電話を切った
なんだか、成森さんに言われると、辞めるの早まったかなって思っちゃうが、そうしたお蔭で、新しい展開も出て来たんだから、こういうときはポジティブで行くのが一番、って考えたらやる気が湧いて来たんで、
荘田君からもらってた名刺を見て、電話を入れてみた
「上辻曲でーす。今、電話、大丈夫?」「ああ、はい、いいですよ。ちょうど、僕もお電話しようかな、って思ってたとこですから」おっ、意外に元気だ「もっとへこたれてるかなって思ってたけど、この間の取材は、どうなったの?」「そう、それですよ。僕も穴山さんも、大分、ごちゃごちゃ言われちゃいまして、結局、僕は深夜枠の『びっくり映像グランプリ』に異動で、今、お笑いキングの松久さんと新コーナーの企画練ってるんですよ」「松久さんって、マツタカのこと?」「そうっすよ、松久隆利っすよ!」
そう言えば、深夜バラエティを松久隆利と女優の末広直子がやってるって、ちらっと聞いたことがある
「とにかく、インパクトがある画と結果があるネタなら、なんでも来いの番組っすから、いけるかなって猪を観てもらったんですよ。そしたら、ええやないかぁ!って」「で、ヒグマも売り込んだ?」「そっす!」
何か、面白くなってきたっぽくない!?
「一応、売込み動画って体裁ですから、また、僕とランボーさんの二人ロケってことですかね」「OK、やろうよ!」
神戸の猪退治も、そんな編集でいくみたい。俺も、なんか俺のやること超法規になるんだって、って荘田君に言ったら、随分喜んでた
電話終わって、残りの弁当も食って、やる気満々の俺だったけど、荘田君だけに任せず、ヒグマのことも調べんといかんって思って、PCのフタを開けた