大本(オオモト)の方って、言っちゃってから、なんか変な言い方だったかなぁ、って思ったけど、ま、しょうがない、言っちゃったんだから。黒幕って言うとギャングみたいだし、上司の方っていう感じじゃないだろうし…
こっちが、もやもや考えてたら「分かりました、連絡取ってみますので、電話を切ってしばらくお待ち下さい」って素直に答えたんで、びっくりした。どっちにしても、そんなに隠そうとしてる訳じゃあなさそうだな
5分もしないうちに、轟係長から電話が入って「先生がお会いしたいとおっしゃっていますので、これからお迎えに伺います」って言って来た。こっちも「はい、どうぞ」って返事しといたら、10分後に、ドアチャイムが鳴ったんで、ドア越しに透視すると、あの時の若い佐久間君が仏頂面で立っている
「まさか、今日の今日で返事が来るって、思ってなかったでしょ」こっちから打ち解けてやろうって思ったんで、気軽な調子で話しかけてみたんだけど、昼に来たときに機嫌悪くしたせいか、にこっともしないで「用意出来てるんなら、下に車待ってます」って、ぼそっと言うだけ
一緒にエレベーターに乗っても、車(黒塗りの高級車!)に乗り込むときにも、な〜んにも喋らず、俺を後ろの座席に案内してから、ドアを閉めて助手席に乗り込んだ
運転してる奴も、ただしっかりハンドル握って、黙って運転してるだけの無言で、面白くもなんともない
それでも、しばらく走って、なんかお屋敷町みたいな区画に入ると「もうすぐ着きますから」って、ぼそっと一言だけ声を出した
それから、なんか鉄柵の門に車が近づくと、門が一人でに開き(ま、当然自動扉なだけだけど)、車は静かに邸内(って言えるような大きなお屋敷)に入って停まる
俺って庶民だから、こういうのに弱いって言うか、位負けって言うのか、なんか緊張しちゃってる
佐久間君がさっと降りて、後部ドアを開けてくれる。ちょっと偉くなった気分
降りると「こちらです」と言って、どうぞみたいな感じで手を動かすと、後は俺を見ようともしないで、さっさと先に発って歩き出す
慌てて付いて行きながら、これじゃあ負けてるみたいじゃん、って思って、気を取り直して、歩く速度を上げて、佐久間君を追い越すと、今度は彼の方が慌てて、俺の前に出ようとする
そんな馬鹿やってると、結構広い敷地なんだけど、じきに玄関に到着してしまい「こちらからどうぞ」って、若干はあはあしながら佐久間君が、玄関の引き戸を開けてくれた(まるで和風旅館みたいな家じゃん!)