俺的には、こんな風に上から目線で言われるのが大嫌いだったんだけど、警視庁勤めして、この手の人たちの傾向というか、特徴は分かっていたんで、ここは逆らわずに話を聞く振りだけでもしとくことにした
「まあ、なにも貴方に日本人を辞めてくれなんて言ってる訳ではないんです。ただ、対外的には、超人ランボーさんで通して頂きたいのです」中年の男は、妙に馴れ馴れしいというか、親切ぶった喋り方で、俺を口説いてる(怪しい通販のアレだ)
「まあ、いいんっすけど、俺、まだあなたの名前も知らないんだよね。それだったら、こんな話だけでいい返事なんて、できっこないっしょ」って、言ってやった
「まあまあ、我々にもいろいろ理由がありましてね。でもいいでしょう、私は溝口と申します。それから、こちらが4係の係長の轟で、同じく4係の佐久間です。今後、連絡等は轟に取って頂ければ結構です」いかにも偉そうな奴だ
「4係の轟雄作です」って、この人だけ名刺を出してくれた
「それで、俺、なにすればいいんですか?」ちゃんと挨拶があったんで、俺も真面目に訊いてみた
「それでは、こちらの書類に貴方のお名前と生年月日と、ここの住所をご記入下さい」轟係長が合図すると、佐久間と呼ばれた若いのが持っていたアタッシェケースから、お役所っぽい書類を出して、俺の前に置いた
「ちょっと訊いときたいんだけど、これ書くと俺って、どうなるの」書面を残すってのは、大事なことだから、相手が誰だろうと、ちゃんと訊いとけってのが、死んだ親父がいつも言ってたことだ
「簡単に言えば、君になにかあっても、警察とか救命の保護が無いということかな。まあ、君は超人だから、その辺りは問題ないんだろう?」溝口って名乗った、一番偉そうな人が、さばさば言う
「俺って、国籍とかも無くなるってことなの?例えば、結婚するとか、子供ができても籍が無いとか」駒ちゃんの顔が浮かんだんで、後の方を付足した
「いいえ、そんなことはありませんよ。貴方がするのは、一時的な国籍離脱ですから、ご結婚とかお子さんがお生まれになれば、その辺りは大丈夫です」なんか、変な話だけど、もう少し訊いておきたいこともある
「それで、俺はもう思ったままに超人として、いろんなことやってもよくなるの?」
「公序良俗に背かなければ、OKです。とは言っても。やりたい放題やれるという訳でもないんですが」なんか、ひっかかった言い方だなと思った俺は、ちょっと相談したい人がいるんで、サインは後日ってことで、お願いします」って、言い切ってみた
轟係長は困ったような表情になり、ちらっと溝口さんを見て「分かりました。それでは、明日一杯お待ちしますので、木曜日の午前11時にお伺いいたします」って言うと、お辞儀をして三人で帰っていった
部屋に残った俺の頭に、思いがけず警視庁の星崎さんの顔が浮かんだ(駒ちゃんじゃなく)