「仕方ないな」とかもう一人の囁き声がして(俺、超人だから聴こえちゃう)、続いて「内閣調査室の者で、怪しい者ではありませんので、お部屋でお話させて頂きたいのですが」って、真中の若い奴が言った
どっちみち、入って来る気だろうと思ったけど、俺もちょっと意地になって「だぁからぁ、用があるんならここで喋ってよ」って言ってみた(大体、内閣調査室なんて知らんし)
「つべこべ言うんなら、ここで言ってやろうかっ!」ついに頭にきたみたいで、若い奴がそう言うと俺の胸をど突いて来た。もち、俺はびくともしない。で、そいつは、運動量の法則かなんかで、自分の力が跳ね返ってよろめいた
「よせっ、この人は我々なんかの力じゃ歯が立たないんだから、とにかく頭を下げて話を聞いてもらうしかないんだぞ!」って、多分偉い人らしい中年の男の人が、若いのを叱った(なら、最初からお前が話せよ)
「失礼した。突然の訪問で、訝しむ気持ちは理解しますが、なにぶん国家の機密事項でもありますので、この場でお話しするわけにはいかないのです」今度は、やけに下手に出て来たから、俺としてはまあ満足なんだけど、なぜこういう段取りになるのかねぇ…
「わかりました、そういうことならお入り下さい」ってな風になって、三人が部屋に入って来た
残念ながら、特に応接っぽい家具がないんで、ダイニングテーブルのとこに、アウトドア用の折り畳み椅子を足して、三人に座ってもらい「インスタントしかないんで、それでいいっすか?」って、訊いた
もちろん三人は断ったんだけど、俺としてもなんか恰好がつかないんで、客用にって駒ちゃんが持ってきてくれてたマグカップに、インスタントコーヒーの粉をスプーンで入れて、慌てて沸かしたお湯を注いで、来客に出してやった(もち、自分のも用意)
「で、なんの御用なの?」改めて訊いてみたけど、すぐ返事ってことない訳だから、コーヒーを一口
「実は、内閣で貴方のことが議題に上りまして」って、中年の偉そうな人が口を利くとすぐ「日本政府としては、君のことをカバーできなくなる先に備えて、君を日本国籍から切り離すことを考えている」ってそれまで口を開かなかった最後の一人が、声優みたいないい声で話を繋いだ
「はあ?」ってなるよね
「その方が、貴方も自由にやってもらえそうだし、第一、どうせ我々には貴方を止める手がないんだから。国民としての国の保護の必要もなさそうだし、その方がスーパーマンやり易いんでしょ」って中年の人
「えっ、ちょっと待ってくださいよ。俺、日本から追い出される、ってことなんですか?」急に不安になる
「そうじゃあない。むしろ我が国としては、君の存在価値が高まっているのは百も承知なのだ。ただ、現行法に照らすと、君のやりたい放題では支障が多いのも事実。我々が、そこに対処しなければならなくなれば、おのずと君との対峙を覚悟せねばならなくなる。そんなことになれば、テレビ局の彼女との関係も含め、今の君の生活環境は成立できなくなる」…三人目の人が何を言いたいのかあまりよく分からなかったんだけど、駒ちゃんのことが出たんで俺はかっとなって、すぐはっと気が付いた。いくら俺が超人でも、全部は守り切れないってことに
「じゃあ、俺はどうすればいいんですか?」「それでそこをご案内に、こうしてお伺いした訳なんです」中年の人が、ちょっと嫌味な感じで付け加えてきた