220703↓
「ジョーって呼ばれてるわ」意外に素直に答えてくれたんで、へぇー結構いい奴かも知れんな、って思った
「そうか、俺のことはユータローって呼んでいいぞ」軽く上からマウントで答えてやった
「どーでもいいわ!それよっかおめぇ、あん人らんとこ行ったら、ぜってぇボコられっぞ」なんか親切に教えてくれるじゃん、こいつ
「おお、ありがとなー。まあ、構わんから気にせんでえーよ」相手に合せて喋るの、俺、得意なのかもな
ジョーって奴の後くっついて、とろとろ歩いてくと暗っぽい路地の奥に、ほとんど灯かりが点いてない4〜5階建のビルがある。きっとあそこだな、って思ってると「着いたぞ」って、ジョーが低い声でぽつっと言った
「おお、ありがと。じゃ、あそこから入ってけばいいんだな」けど、前方のビルの入口らしいとこは、シャッターが降りてる
「ちがうちがう、あっちの非常階段を4階まで上がると、開くドアがあるから、そっから中に入るんだ」声が緊張してるから、よっぽど怖い奴ららしい
ジョーは一緒に入って行きたくないらしくて、あっちの非常階段を上れっていうふうに、顎を動かして俺を行かせようとジェスチャーしてる
「じゃあ、またな」自分でも驚くほど落ち着いた声が出て、俺は片手を上げて、カッコよく非常階段を上り始めた
こんなとこ、ぱっと飛び上がっちゃえば簡単なんだけど、ジョーが心配そーにこっち見てるから、めんどうだけどカンカンカンカンって音させて、軽〜く気持ちよく鉄製の階段を地味に上ってく
4階の扉に着くと、さすがに俺のテンションも上がってくる
勢いでこの扉を引きちぎっちゃわないよーに気を付けて、なるべくそーっと引っ張り開ける
思ったより重くて、俺も力を50%くらいまで上げて、ぐいっと引き開けた
ぎぎぃっと鉄が軋む耳障りな音が響いて、鉄扉が開いた
扉の奥はほとんど真っ暗。もち、俺にはくっきり見えてて、暗い中に何個もいろんな形のソファに、やばそーな奴らが7人、周りの壁ンとこに後ろに手を組んでるごつい奴らが7人立ってる
そこでぱっと俺の頭の上の照明が点いた
普通の奴だったら、こっちだけ明るくって、あっちは暗いとこだから、せいぜいぼやっとしか見えんだろーし、壁際の連中なんて絶対見えんわって思ったら、こいつら結構演出家じゃん、って可笑しくなった
「誰?おめぇ」低くて迫力ある声が暗闇から聞こえる
「あっ、俺ですか、いいじゃないっすか誰でも。まあちょっと、お宅ら潰しに来ただけの話ですから」ぐわっと場の緊張度が上がったのが分かる
「ああー、なにこいてんだぁおめぇ。寝言いってんじゃねぇぞぉ」さっきの低音野郎と違って、声がざりざりした耳触りのめっちゃ悪い、凶暴な感じの声が響く
…って、普通は暗闇から声だけ聞こえるんだから、相手が何人居て、どんな奴らなのか、いろいろ迷って相手にイニシアチブ取られるとこだろうけど、あいにく俺にはどいつが喋って、どいつが偉そうに深くソファに沈み込んでるのか、どいつが手にしたナイフの刃に、指先を滑らせてるのかよ〜く見えてるんだよな