2022年04月25日

ランボー超人Bの物語-11 ヒーローにランクアップD

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「う〜ん、だめだなぁそんなんじゃあ。そんなに優しくぶちかましたんじゃなかったんだろ」殿倉さんの不機嫌そうな声が響いた
「もう少し、大きく飛び出して頂けませんかねぇ」フロアDのトクさんがダメ出ししてきた

クッションの上で、抱き合ったままみたいになってた俺は、遠ケ峰さんの耳元に「今の倍くらいの強さでもいけます?」って囁いた
「ええ、全然平気っすよ」落ち着いた低い声が返って来た

遠ケ峰さんの身体に触れてみて、鍛えられた筋肉とか、しなやかさを感じた俺は、これならもう少し強く当たっても、大丈夫だなって思えた(SITの隊員より身体強いかも)

次はあまり手加減しないでタックルかましたら、銃構えてる格好のまま後ろにすっ飛んで、張ってあったネットにどっさーっと当って、跳ね返って前向きに床のクッションに当った

しまった!かなって思ってフリーズしたら、ゆっくり遠ケ峰さんが起き上がって来たんで、ほっとした
「大丈夫?遠ケ峰さん」ザキさんがあせった声で呼びかける
「OKでーす」って答える声は、苦しそうで余裕ない感じだけど、やっぱりプロのスタントマンってすごい

「いーねぇ。本番もその調子でね」殿倉さんのご機嫌な声がスタジオに響いた
「じゃ、次は、今ふっ飛んだ銃をジンちゃんが拾って、もう一度銃を構えるシーンから超人ランボーが飛びかかって、今度は横に払い飛ばす」トクさんが説明し、待機していたもう一人のスタントマンの窪野さんが大きく頷いた

あの時は確か、大きなデスクの方までふっ飛んで、どっしゃーんみたいになってたけど、今はその辺りにヨギボが何個か置いてあって、念のためか、やっぱり後ろに大きなネットが張ってある

それじゃあ、って銃を持ったジンさんに向かって大きく飛んで、持ってる銃の銃身を掴んで手繰り寄せると、思ったより軽く手元に来たんで、ぽんと横に振った

俺が思ってより、ジンさんは軽々と横手に吹っ飛んでって、7mくらい離れてるネットに相当強くぶつかった
どうもジンさんは、スタントマンの流儀で演者の動きに合せて、少しオーバーめに動きを誇張する癖があって、俺の力が想像を遥に超えていたんで、アクションが増幅してしまったらしい

スタジオ内のスタッフは皆凍り付いて、ジンさんが生きているかどうか、ネットで跳ね返ったジンさんが突っ込んだヨギボの散乱している辺りを、息を呑んで見守ってる(もち俺も)

ごろっとヨギボが動いて、ジンさんが情けなさそうな顔で、右手を上げよろけながら出て来た時には、スタジオ中の全員が、わーっと叫びながら盛大な拍手を送った

「いやー、いやいや、ワイヤーアクションなんて比べもんにならない弩迫力だったねぇ〜」どうやら局内事故にならなかった安堵感からで、報道局の次長さんがかすれ声を絞り出すようにそう言った

「すごかったんだけど、どう本番でもう一度やれるか?」殿倉さんが、最初に冷静になって呟いた
「どう、ネットの状態は?」フロアDのトクさんが、近くにいる大道具さんに声を掛けた。「だめっすねぇ」小さく返事が返って来る

「殿倉さん、いまのカメラテストも兼ねてたんで、カメラ廻ってましたよ」ザキさんがそう言うと、皆がほ〜っと息を吐いた
「よし、それ使おう。スタントの二人には、水越君がリアルなふっ飛び感想を訊く。見てた僕らの証言も使えるぞ」殿倉さんが、張切り始めた
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2022年04月15日

ランボー超人Bの物語-11 ヒーローにランクアップC

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続いて、「いや〜、先日は大活躍、お疲れさま」殿倉さんがそう言いながら立ち上がって拍手すると、部屋にいる全員が立ち上がって拍手してくれたんで、俺びっくり

「ここにいる皆、先日の○×信用金庫の立てこもり事件を観てました。本当に現実社会に、あんなに頼もしい正義の味方が出現したことに、拍手喝采しましたよ」プロデューサーの御香山さんが俺をヨイショしてる

「それで、殿倉キャスターとお話したんだが、なんとそのスーパーマンが、ウチの局に縁浅からぬ仲だと言うではないですか」って話を足したのは、今日初めて見た冠沢さん(報道局次長のお偉いさんだそうだ)

皆、そうそうって顔して頷いてる(駒ちゃんも)。…で、やっと話が分かって来た
つまり、なんかあの日の俺を取り上げた特番をやりたいから、協力してくれる?って話なんだなって思った

「じゃあもしかして、あの立てこもり事件を番組で取り上げるとか」って、俺の方から話をし易くなるように、話を振ってあげた(駒ちゃんが微かに頷いたのが分かった)

「おぉっとぉ、さっすがぁ、鋭い!ヨミぴったり。そーゆーことなんですよ」ザキさんが、話を盛り上げる
「でね、あの事件を振り返るのに、本物の超人ランボーが出てくれて、あの日の再現アクションをしてくれたら、視聴者の皆さんがどんなすごいことがあったか、すんなり理解してくれるんじゃないか、ってね」

殿倉さんの言葉を聞きながら、そうかそれもいいかも、って思った
「再現アクションって、ほんとに犯人役がいて、それをあの日のように、俺がやっつけるってことですか?」

「そうそうそう、どう?できそうかなぁ」興奮気味のザキさん
「いやぁ、やれっちゃぁやりますけど、犯人役の人、大丈夫かな〜って」ほんとにブッ飛ばしっちゃったら、ひどいことになるんじゃないかな

「大丈夫。ちゃんと一流のスタントマンにやってもらうし、衝撃吸収マットとかも用意するから」
「どう?このあと、ちょっとリハお願いできそうかな?」フロアDのトクさんが、予定通りって感じで、話に入って来る

「俺はいいですけど」俺自身も興味が湧いて来たんで、前向きな顔で返事する
「じゃあ、皆さん、下の第3スタジオに行って頂けますか」ザキさんが、いいノリで皆を促す

第3スタジオは『ニュースバラエティ 午後だよGo!Go!』の専用スタジオだ
そこに行くと、すでにリハの用意が出来ていて、壁面の手前に大きなネットと厚いクッションが敷かれている

「スタッフの皆さん、確認します。犯人役はNAT(日本アクション隊)の遠ケ峰剣次郎さんと窪野刃さん。アクション指導は、堂上譲二さんとなっていますんで、よろしくお願いします」フロアDの徳山さんが仕切る

俺は、これまで1〜2回テレビに出たことはあるけど、ほぼほぼ台本があって、キャスターの人が話しかけてくるのに、返事するくらいだったから、こんなリハとかは初めてなんで、なんかどきどきして来た

ちょっとぼぉっとして立ってると、ふわっと駒ちゃんの匂いがして「大丈夫、勇太郎さんならできるよ」って、囁き声が聞こえて、ちゃんと大丈夫になれた

「じゃあ、ちょっと予備アクションですけど、超人ランボーの力がどれくらいなのか、遠ケ峰さんと窪野さんに把握してもらいたいんで、あの日のアクション1の銃を持った犯人Aに体当たりかますのと、次に銃を持った犯人Bを張り手で横に吹っ飛ばすのをやってもらえますか」ええっ、いいのかな

「もちろん、本気じゃなくって手加減してくださいよ」殿倉さんが、笑いを取る風に付足す
「わかりました。それじゃあ」ってんで、二人のスタントマン役者さんにお辞儀して、とにかく演ってみた

まず、あの日のあの場を思い出しながら、まず猟銃のモデルガンを持って脚立台の上で仁王立ちの遠ケ峰さんに向かって、床から軽く飛び出して胴タックルを決め、その勢いのままクッションの上に一緒に落ちてみた
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2022年04月11日

ランボー超人Bの物語-11 ヒーローにランクアップB

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その翌々日、駒ちゃんから“殿が特番に出てくれないかなって言ってるけど、どう?”ってメールが入った

俺はあの日の事件後に、警視庁に戻っていろいろ報告書用の事情聴取(さすがに報告書はSITの誰かが書く)されて、昨日はなんか頭が疲れた(身体はなんともないんだけど)感じだったんで、一日中ゲームとかだらだらしてた

今朝は、まあ復活したんで、久しぶりに雄仁塚に行ってみようか、って思ってたんだけど、もちろん駒ちゃんの方を優先して“いいよ、これからTテレに行こうか”って返信した

駒ちゃんの方は、そんなに即、俺が行くって言うとは思ってなかったみたいで“殿に都合どうか訊いてみるね”って返信があった

俺も、じゃあ来て、って返事になったら、何着てけばいいかな、なんてちょい悩み
言ってなかったけど、最近稼ぎが良くなったんで、近々渋谷区の築20年2LDKのマンション(管理費込み家賃26万)に引っ越す予定。5階だから飛んで出勤するのに便利なんだ

駒ちゃんにも相談したら、中目黒にも近いねってことで賛成だったよ。引っ越しの日はお祝いに来てくれて、そのままお泊まり、な〜んてあるかもなぁ…

そっちならウォーキングクロゼット(っていうか物置部屋)があるんだけど、今はカバー付きハンガーラックにぶら下がってる少ない服を、どうしようか眺めてる俺

そこにTEL入った
「勇太郎さん。来られるんなら、打合せしたいから、出来るだけ早く来て欲しいって」OK、了解って応えて俺は結局、いつものランボーコスチュームを手に取った

*

いつものようにヘリポートから入って、制作会議の部屋に向かう
局員も、大分超人ランボーの俺に慣れて、普通に部屋に入れてくれる

メインキャスターの殿倉さんと、サブキャスのレイコさんが軽く手を上げて、隣の席に来るように言ってる
番組Pの御香山さん、チーフDのザキさん、水越アナ、星野アナ、地味な報道局次長の冠沢さんまで居る

駒ちゃんも、他のフロアDやADに混じって席に着いてる
「それでは主役も到着したようなので、特番の最終進行ミーティングを始めます」ザキさんが、緊張した声で発言した
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2022年04月02日

ランボー超人Bの物語-11 ヒーローにランクアップA

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犯人は中華屋の店員とは言っても、警察官が化けてるんじゃないかってハナから疑ってるみたいで「岡持ちをそこに置いてお前は、もう帰れ!」みたいなこと言ってる

ドア越しに室内を透視すると、男が一人猟銃らしき長い物を持って、カウンターの上で仁王立ちになっている
そして、いつもの待合コーナー辺りに、人質なんだろう人影が一塊になって、床に座らされてる

犯人はもう一人いるはずなんだけど、そいつの姿は見えない
まあいいや、中に飛び込んじゃえばなんとかなるだろうって思った(そういうのはやめてくれ、って成森さんがしつこく言ってたけど、俺にはなんか自信があった)

その辺りまで見といて、俺はわざとガチャッて音をさせて、ドアの前に岡持ちを置き「じゃ、置きましたから」って大きな声を出して、足音をばたばたさせて、その場を離れてった

自転車置き場の陰に隠れて、耳を澄ましてちょっと待つと、ドアがちょっと開いて、中から外の様子を窺ってる奴がいる(さっき見えてなかったもう一人だな)

その後、急にさっとドアが開いて、男が出て来て岡持ちを中に持ち込もうとした、けど、中にはラーメン4杯炒飯3皿分入ってるから(人質分も含む)、ちょっと重い
少しもたもたしている隙を突いて、猛スピードで走り寄って、男を部屋の中にどん!って突き飛ばした

男は岡持ちといっしょに、どんがらがっちゃんみたいに、ど派手に転げ込むと壁にぶつかって、ラーメンと炒飯でぐっしゃぐしゃになって転がった

それを見て、銃(らしい物)を持った奴が「くっそー!」とか叫んで、こっちに銃口を向けた
だけど、なんてったって俺は超人なんで、続いて一気にロケットダッシュで男にタックルをかました

その瞬間、ダンって発砲された弾が俺の右耳をかすめて、後ろの壁に当って欠片が飛び散る
同時に、俺の猛タックルは男の胴体を捉えて、すごい勢いで二人一緒に窓ガラスに突っ込んだ

ガッシャーン!!と、びっくりするような音がして、どでかい窓ガラスがバッシャーンって割れて、俺と男はひと固まりになって、窓の向こうに降りているシャッターに激突でした

もちろん、俺は平気な顔で、割れたガラスの欠片を手で払いながら立ち上がり、銃を持ってた男の方は、ガラスでそこらじゅう切っての血まみれ状態で、そのままのびちまってる

俺が余裕かまして「皆さん、お怪我はありませんか?」とか話しかけてたら、人質の中の何人かが「危ない!」って叫んだ

指差してる方を見ると、ラーメンの麺と汁にまみれてた男が、さっきふっ飛ばした奴が放り出した銃を持って、突っ立ってるじゃないか

「キッサマー!!」って、なんか妙な発音で怒鳴ると、俺に向けて銃をぶっ放した
今度は、しっかり腹の辺りに当っちまって、借り物のラーメン屋の店員服に穴が開いた

なんか、すごく頭に来たんで、カウンターを飛び越して、そのまま真直ぐ男に掴みかかってった
銃の筒になってるとこを引っ掴んで、ぐいっと思いっきし引っ張ったら、そのままこっちに引っ張り込れて、びっくり顔のまま俺の顔に超接近

その顔がうざくって、今度はぽんって横に振ったら、大体この部屋で一番偉い人の席らしい大きな机と椅子の中にぶっ飛んで、今度こそ動かなくなった

その様子を観てた人質の人たちから、思わず拍手になって、俺はラーメン屋の店員の恰好のまま、頭をかいてお辞儀するみたいな、ちょいお間抜けなシーンになっちまった

全部片付いた後で、葛城警部からは「お前さんはやり過ぎだぞ!」って、小言食らったけど、その後会いに来てくれた成森さんからは「ど素人の作戦の割には、上手くやったじゃないか」って褒められた

実を言うと、暇してた時に何回か、Tテレに行って振り付けの堂上さんに頼んで、アクションの殺陣のかっこいいのを教えてもらってたんで、少しは要領よく動けたんだと思う

ただ、この日の活躍でムッチャ俺の評価が上がっちまって、結果その後、大変な状態になるってことは、この時には考えてもなかったんだよね
posted by 熟年超人K at 16:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 書き足しお気楽SF小説