2021年05月15日

ランボー超人Bの物語-8超人って大変A

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それから1分くらいして、返信のポポポーンが鳴った
『OKです 9時に6階のJスタジオに居ます』…っと、これは嬉しい返信だ!

それからの俺は、時間が経つのが遅くなるは、夕食はなにを食べたか覚えてないくらい舞い上がるはで
ほんとに舞い上がって、天井にぶつかるとこだったよ

7時のニュース番組になったところで、テレビは消して、お出かけ用の服に着替えた
下はテーパードパンツ、中はロング丈Tシャツに紺のビッグパーカーを着て、その上に濃いオリーブ系のジャンパージャケットを重ね着した

ファッションセンスは無い俺なんで、20代後半男子スポーテーでカッコよい服、でググってから近くのSCで買った服だ(駒沢さんが気に入ってくれるといいんけど…)

着替えが終わっても、まだ30分も時間が経ってない。しょうがないんで、もう一度テレビを点けて、ダイニングの椅子に座ると、首都高で多重追突事故が起きたんだが、今の時間、帰宅ラッシュで救急車が現場に着けてないらしい

そうか、これこそ俺の出番じゃんか、って思って、すぐ飛び出しそうとして、俺は約束に間に合うんだろうか、って気が付いてフリーズしちまった
だって、服装だってスー○ーマンっぽくないし、汚れちゃいそうだし…

今映してるテレビ局のヘリに撮られそうだし…。後で、Tテレさんからなにか言われるんじゃないか、ってか、そのことで駒沢さんが叱られるとか、いろいろ考えると、止めといた方がいいかな、なんて思っちゃう

どうしたらいいか、ちょっとぼやってなってたら、何台か追突して塊ってる中の1台から、火が出た
こりゃ、こうしちゃいられない、って正直そのときの俺は、完全に困ってる者の味方、正義の味方化しちゃって、部屋から飛び出して、ベランダから夜空に飛び込んでった

ビューって風切って飛んでくうちに、頭が冷えてきて(と言っても、超人だから寒いとか感じた訳じゃなく)、首都高のどこなんだ、って気が付いたわけ

で、しょうがないんで、中央自動車道沿いにスピードを少し落として飛びながら、スマホで“今・首都高・多重事故”でググって、どうやら初台南と大橋ジャンクションの間らしいのを突き止めた

でも、具体的に何処か分かった訳じゃないから、テレビ局や警察のヘリとか、高速道路上の炎とかを目印にすればいいや、って雨か雪が降りそうな暗い夜空をぶっ飛ばしてった

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ちょっと今までにないくらいのスピードを出したんで、みるみる東京の中心部の、シャンデリアみたいに輝いてる灯の塊が大きくなり、その中にテレビで見たことのあるビルの輪郭も見え始める

走ってる車のライトの連なりで、首都高の形状がはっきり分かり、都庁ビルを目印に高度を下げて近寄っていくと、動かないライトの列があり、その先頭がごちゃっとなっていて、火が出ている車も確認できた

そんな全体像を見て、俺にしちゃ珍しく頭がすっきり回転して、空から事故現場に直接降りるのはダメだろ、って考えがひらめいた
そんなスー○ーマンまんまの登場じゃ、注目(特に上空のテレビ局のヘリのカメラの)の的になっちまう

だもんで、事故現場の手前の、首都高の高架下の暗いところを目指して、滑り込むように舞い降りた
高架の下部分は、さすがに誰からも見られず、下の一般道にしても、車が走ってるだけだから、俺はムササビかなんかにでもなったような気分で、高架下の梁に一旦停まって、そこから高速の道路に登った

最初に追突されたんだろう、黒い国産高級車に、ドイツ車のスポーティーカーが突っ込んでいて、持ち上がったボンネットのすき間から炎が吹き上がってる
どうやら、まだ車内に二人残っていて、多分、シートベルトがからみついて、出て来られないように見える

玉突きになっている車は7〜8台あり、事故車の前方にも、後方の事故に気付いて道路わきに車を停めて、救助に加わろうとしている人たちが、10人ほどいるが、皆、燃料タンクが誘爆するんじゃないかと、びびってるようで、距離を置いて様子を見ているばかり

そこで、俺さまの登場ってことになる
おたおたしちゃいられないんで、手っ取り早く、エンジンルームから火が出てるドイツ車に向かう

熱さなんか無視して、ドアノブに手をかけて、ぐいっと引っ張ると、バッキーンって派手な音がして、助手席側のドアが大きく開いた(多分壊した!)
頭から体を突っ込んで、助手席でぐったりしている女の人のシートベルトを外しにかかる

外車なんで、ちょっとよくわからなかったけど、ベルトのジョイント部分のボタンをがしゃがしゃ押したら、ぽんと外れたんで、動けない女の人の脚と腰の下に手を差し込んで、お姫様抱っこみたいにして、手早く車外に運び出した

「誰か、頼む!」と声を張ったら、中年の男性が「はいっ」と返事をして、女の人を受け取ってくれたんで、ほいっと渡して、今度は運転席の男性の方に回り込む

運転席側のドアは、問題なく普通に開いたんだけど、シートベルトは外れてないわ、膨らんだエアバックに挟まれちゃってるわで、男の人の方はちょっとややこしい恰好になってる

エンジンルームの火が、ボンって軽く爆発したんで、俺もあせってしまい、運転席ごと力任せにとっ外して、道路に放り出した
こっちの方は、様子を見ていた他の助け人が、二人慌ただしく駆け寄って来たんで、もう任せて、外車に突っ込んでる形になってる、ワンボックスカーの方に向かうことにした

ワンボックスカーの車内に目をやると、透視眼が働いて、運転席にお父さんらしき人、隣にお母さんらしき女性、後部座席に子どもが二人、皆んな、衝突のショックでぐったりなってるのが確認できた

こっちの車は、ガソリンの給油口のカバーがひしゃげていて、ガソリンが漏れ始めている様子だ
どっちにしても、早く全員助け出さないといけないが、もし引火して爆発したら、犠牲者が出るかも知れない

一瞬迷いが出たが、そんな暇無いんだ、って自分が自分に言い聞かせる声が聞こえた気がして、とにかく、手近な母親がいる助手席のドアを引き開けようとして、開かないのに気づいた

きっと慎重派の母親なんだろう、走ってる最中にドアが開いたら危ないって考えて、ドアロックしてるんだろ
しょうがないから、これも力任せに引っ張ることにした

バッキン!ってでかい音がして、ドアが引きちぎれて、その勢いでボーンって、すごい勢いで吹っ飛んでった
遠巻きにいる誰かに、当らなきゃいいが、と思ったけど、後ろを見てる間も惜しいんで、そのままの勢いで、助手席ごと母親を引っ張り出して、路上に放かした

誰か助けてくれよ、と思いながらも、次は後部ドアにかかることにしたが、こちらもやはりドアロックされてたし、スライドドアなんで、手がかけにくい

はっと気が付いて、窓ガラスを叩き割ることにして、中の子どもに気を付けながら、ゆで卵の殻を割る要領で、拳骨の中指を高くして窓ガラスをコツンとやってみた

これは思ったより上手くいって、窓ガラスに丸く穴が開いたんで、手を突っ込んでドアロックを解除して、ドアを思いっ切り、引き開けた

まず、手前の男の子のシートベルトを外して、片手で引っ張り出す
「はいっ」っという声がかかったんで、気が付くと男の人たちが3〜4人、俺が子どもを助け出すのを待っている

「ほいっ」と男の子を手渡しておいて、今度は車内に入り込んで、奥の席の女の子もシートベルトを外して、抱き取ると、外で待ってる男性に手渡す

そのとき「あーっ、火が!」と言う声がして、急に車内に火と煙が充満し始めた
まだ、父親が残ってる、と思ったんで、とにかくなんとかしなきゃと、慌てて目の前にある運転席のシートベルトを外そうとしたんだが、がっちりどこかが食い込んでいて、外せない

俺自身は、別に熱くもないし、煙も吸い込まないよう相当長く息を止めていられるけど、父親の方はそうはいかない
息苦しさで正気になったか、猛烈にげほげほし始めている

もうしょうがないんで、シートベルトを引きちぎって、父親を後ろから引きずりだそうとしたが、傷つけずに出すのは、ちょっと無理っぽい
それに、車の右側はガードレールがあって、火がもっと大きくなったら、結局助からないだろう

なんか、もうどうしたらいいのか、分からなくなっちまって、頭がかーっと熱くなって、俺は無我夢中で車内で立ち上がって、天井をぶちやぶっちまった

そりゃ、外で心配で見守ってた連中はびっくりしたろう。てっきり車が爆発したんだと思ったに違いない
車の屋根突き破って、俺はお父さんを抱いて、路上に降り立ったんだよね

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そのときの、事故車の近くに集まってた皆の顔ったら、ボーゼンとして、なんか信じられないもの見ちゃった感満載で、俺としてはTテレビさんの約束もあるんで、まずかったかなぁって、そわそわしたんだけど

「すごい!すっごいなー!スー○ーマンって、実在するんだ!感激です、僕」とか
「信じられない〜」「すごいぞ、あんたすごいぞ!」とかとか
拍手する奴もいて、それが皆に広がって…気分盛り上がるわ

「この人を、よろしくお願いします」って、一番近くに居た背広の若い男にお父さんを託して
「じゃっ」って短く言って、とりあえず空に飛びあがったんだ(しまった、飛ぶとこ見せちゃた)

上のヘリにぶつかっちゃいけないから、5〜6mくらいのとこから、水平飛行に切り替えて、ヘリのカメラから逃れられるように、明かりの少ない方目指して飛ぶことにした

ちらって、上を見るとヘリはまだ現場上空に3機ホバリングしていて、カメラで俺を映してるとは思えなかったんで、一気に上空目指して急上昇して、ヘリよりずっと高いとこまで行ってから、そこだけ灯の疎らな皇居を目標にすっ飛んだ(やばっ、もう9時はとっくに過ぎちゃってる!)

Tテレ本社の屋上ヘリポートに着いたのは9時45分過ぎ!
大慌てで屋内に入るドアを開けたら、ガキンって音が響いて、取れちゃった
構ってる間が無いので、そのままにして、階段を飛ぶように走り降りた(いや、飛んで下りた)

誰にもぶつかったりしなかったのは、俺も相手も幸運だったと思う
あせあせで、6階のJスタジオを目指して突撃してった(20階建てのビルの屋上のヘリポートからなんだから、超人だってきついって!)

スタジオに飛び込んだのは9時50分ジャスト!
証明が点いてなかったけど、俺の眼にはちゃんと見える。で、誰もいないのが分かった

あわててたんで、例の事故現場に着いてからずっと、スマホを見ることを忘れていたことを思い出した(変な言い回しだけど…)
スマホのTELの着信履歴が3つ、メッセージに2つ

『打合せがあったので、Jスタジオには9時5分くらいに行きます 遅れてごめんなさい』
『40分まで待っていましたが、10時からの打合せの準備に向かいます 打ち合わせ場所は8階の前回と同じ会議室です よろしくお願いします』う〜ん、待たせちまったなぁ、打合せには遅刻できんぞ!
posted by 熟年超人K at 23:58| Comment(0) | 書き足しお気楽SF小説

2021年05月01日

ランボー超人Bの物語-8超人って大変@

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「そりゃー、なんかいいことありそうじゃないっすか、有名になったら」真顔の合田社長にマジ返答
「有名って、どういうことだと思ってるんだ、ゆーたろーは」そりゃ、街を歩いてたら人が寄って来るとか、他の有名人と会うことがあるとか、かなぁ…。でも、もうちっといいこと言わんと、社長に馬鹿にされそう

「ま、俺のことが知れてれば、皆が頼りにしてくれて、俺としては、それで良いことするにもし易くなるし」あんまりそこまで考えたことなかったけど、一応そう言ったみた

「そうか、じゃ世間の、お前が知らない人が、なにかやってくれって言ってきたら、ゆーたろーは人助けするってんだな」…そうか、見ず知らずの人たちが、俺も助けてくれ、わたしも助けて、って言って来たら、そりゃ全部助けるは、無理になりそうだな

「ええっと…それはそうなると順番付けるのも大変なんで、俺がやれそうな範囲でってことで…」
「だったら、お前がやれそうな範囲ってぇのを、世間様にあらかじめ分かっておいてもらわんと、大混雑になっちまうなぁ、お前んとこは」なるほど、そりゃそうだろうな。無制限の特売デーみたいなもんだ

「じゃあ、社長さんだったら、こういう場合、どうされるんでしょう?」素直に訊いてみることにした
「俺はなあ、ゆーたろーがスー〇ーマンだってことで、有名になっちまったら、えらいことになるんじゃないかと思ってるんだ」

「へっ、でも、テレビの人たちは、その線で俺を売り込むみたいですよ」
「だから、俺は心配してるんだ。考えてもみろ、ああいったスー〇ーマンとか、なんとかマンって連中ときたら、無料奉仕で助けるんだぞ、しかもだ、上手くやれなかったら、大衆って奴は、あーだこーだ言うんだぞ」

なんか、合田社長が俺のことで、一生懸命喋ってくれてることが、嬉しくなってちょい涙っぽいのが出てきた
「そうっすよねー、無料で片っ端からやってたら、いつかぶっ倒れちゃいますよねー。あ、超人だからそういうのはないか」少し冗談っぽく言って、はぐらかしたけど、きっと社長さんの言ってることって当ってる

「まあなんだ、お前がタレントみたいになって、ウチの仕事を出来んようになるのも困るが、とにかく、お前を利用したいってぇ奴は、わんさか出て来るだろう。せめて、お前の一存だけで仕事が選べりゃいいんだが、多分、なんだかんだで、自由が効かなくなるだろ。国だってきっと放っておかないだろーしなあ」心配顔

「で、俺はどうすりゃ良いんですか、社長」聞いてるうちに、なんだか大変なことになった気がしてきた
「そりゃなんだな、うーんとお前が高いとこから相手をするか、思いっ切り単純に、好きか嫌いかで相手をするかだろうな」う〜ん、分からんこと言うなぁ

「高いとこって、どんな感じのとこです?」まず、分からんことは、訊くだよな
「高いとこってえのは、一般人とは違う考え方、ってことかな。つまり、坊さんとか偉い先生みたいに、自分の欲とか出さんことだな」欲を出さんって、あれが欲しいとかいうこと…無理無理無理、俺、欲一杯あるもん

「単純に、好きか嫌いかで考えるってのは分かりますが、そんなんで、大丈夫なんですかねぇ。世間って」
「まあ、悪く言う奴は悪く言う、良く言う奴は良く言うってことで割り切れりゃ、お前にとっては分かり易い世の中になるだろうな」

そっか、分かり易いのがいいな。合田社長も滑川さんも、俺は好きだし、その線でいけばこの会社の手伝いも出来るしな、って納得(好きか嫌いか決めるのが大変って、まだ分かってなかったんだよな、この時は)

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一応、すっきり気分になった俺は、社長さんに「ありがとうございました!」って、できるだけ元気な声でお礼を言って部屋を出て行こうとした
「おいおい、まだあるんだよ。お前は気が早くていかんなぁ」って手招きして、社長が呼び止めた

「はい?」まだあるんですか、って顔して椅子に座り直す
「それはなあ、契約書みたいなもんには判は押さん方が良いぞ、ってことだよ」なんだか、いつもの社長さんと違って、妙にいいことばっか言ってる

「はあ、契約書のハンコですか。そんなようなこと、死んだ親父も言ってたんで、俺、まだテレビ局の契約書は、サインしてないんですよね」やっぱ、サインしないのが正解だったか

「まあ、テレビのはそう無茶は書いてないだろうけどな。なにが書いてあったのか、覚えてるか?」う〜ん、なんて書いてあったんだっけ…
「なんか、Tテレビの番組を優先する、みたいなことが書いてあったかな、と思うです」

「そうか、まあ、悩むんだったら俺に相談するとか、誰かこういうことが分かってる人に見てもらうといいぞ」いろいろ心配してくれた合田社長が、いつもより立派な人に見えて来る
お礼を言って、雄仁塚建設を出た俺は、なんとなく駒沢さんのこと思い出していた

アパートに戻ってから、なんだか何もやる気が起らなくて、ついつい駒沢さんにメールなんか送ってみた
『駒ちゃん元気?』って、それだけなんだけど、送信をクリックしただけで、急にどきどきした

しばらく、スマホを眺めてたけど、なんの着信音もなく、そのうち自分がアホらしくなって、冷蔵庫開けて、第3ビール開けて飲みながら、テレビを点けた

ちょうどやってるのが『午後だよGo!Go!』で、だったら、駒沢さんはアシやってるから、メールは当分見られんなぁと、かなりがっかり気分に落ち込んだ俺

夕食、どうしようかって考えてると、メールの着信音が鳴った
『わたしは元気だよ 今夜の打合せ OKだよねわーい(嬉しい顔)』もちろんわーい(嬉しい顔)って、すぐ返信しようとして、『相談があるんで、9時に行って良い?』と、付足して送信した
posted by 熟年超人K at 11:55| Comment(0) | 書き足しお気楽SF小説