2021年03月26日

ランボー超人Bの物語-7超人だってば俺はG

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歳は40代後半ってとこかなぁ、なんか番長が捨て猫を可愛がるみたいな、素朴な人の良さがあるんだけど、眼はカシッとこっちを見てる
以前の俺だったら、びびってるとこだけど、あの大手組の親分さんよりは大物感無いし、怖さも少ない

「ちょっとビルを壊しちまって…」こう言ったら、どう反応するかな、って興味心もあったんで、正直に言った
「ほー、兄ちゃんあれか、爆弾魔みたいな奴なんか?」ちょっと声が緊張感を帯びる

「いやぁー、そうじゃなくてビルを持ち上げたら、バキバキってなって、コンクリやら鉄材が下に落っこって、危ないってなっちゃいまして、結局ケーサツにご厄介になることになっちゃいまして…」

「なんや、兄ちゃんはクレーンかなんかの運ちゃんなん」どんどん関西弁になってくる
「いやぁ俺、スー〇ーマンみたいに、腕力があってですね…」って、説明できないよね。で、ちょっと鉄格子を持って実演しちゃった訳

「うへぇー」って、おっちゃん驚いた。「まずいぞ、それひん曲げちゃったら」って、真顔になって俺に言う
「そうっすかね」まあ、そうだろうなって思えたんで、よいしょっと元に戻した

ちゃんとは戻せなくって、なんだか随分歪んだ鉄格子になっちまったけど、まあいいか
「それでなんだ、お兄ちゃんは空なんかも飛べるん?」目の色が変わるって、こういうことなんだな、と俺は冷静におっちゃんの顔を眺めた

「ええ、まあ」そう言って、おっちゃんの顔を見ると、別に悪いこと考えてる顔じゃなく、むしろ心配そうな顔をしている
「すると、なんだな、お兄ちゃんは、ここを出て行こうと思ったら、出て行けるんか。

「ええ、まあ、ですねぇ」ついつい本音で喋りたくなるよな、この人と話してると
「だけどなぁ、それはやめといた方がいいぞぉ。スー〇ーマンだなんて自分で言ってるとこみると、鉄砲で撃たれても平気ってんだろ」そうだな、まだ試してないけど、多分へっちゃらなんだろな

「止めといた方がいい、ですかねぇ」マジに聞いちった
「そりゃそうだぜ。めちゃくちゃ力があって、空も飛べて、鉄砲でもびくともしないなんて、ケーサツが許すと思うかぁ。絶対、役人連中がなんとかしようとするだろうし、なんとも出来んってなったら、外国と闘わせようとするか、完全無視か、とにかくお兄ちゃんは、誰かに利用されるか、ものすごく怖がられるかのどっちかだな」そうかな

「じゃ、おじさんは、俺は強いとこ見せちゃだめって言うんだね」
「そうそう。もう見せちゃったことはしょうがないが、なるべく弱みも見せとくんだ。それが世渡りのコツよ」なんだか、いいこと言ってもらえた気がする

「上辻曲勇太郎、会社の社長さんが、面会に来たから、ここから出て」そのとき、看守(監獄じゃないから違うかな)さんがやって来て、そう言いながら扉を開けてくれた
おっちゃんは、眼を逸らして壁の上の方にひとつだけある小さな窓の方を見てる(アリガトおっちゃん)

面会室まで廊下を歩いて行く間に、多分刑事さんとかが何人か居る部屋とか、婦警さんとかとすれ違ったりして、ドラマで見るような雰囲気を味わいつつ、会議室みたいな部屋に通されると、雄仁塚の合田社長さんと、総務部長さんが待っていて、警察の刑事さんみたいな人に頭を下げながら、なんか謝ってくれて、それで無罪放免(!?)になった(俺としてもホッ)

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総務部長さんが運転する車の、後ろの座席で社長さんと並んで座ると、社長さんが口を開いた
「ゆーたろー、すまんかった。折角、やってくれる気になったのに、めんどうなことに巻き込んじまって」
え、なんのこと?って思ってると

「現場に足場をしっかり造って、養生シートでばっちり隠して、お前の作業をしっかりサポートしてやるから、安心してビル解体、やってくれ!」なんのことかと思ったら、結局それかい!

それから、3日かけて解体ビルの周りに、通常よりしっかりした足場と、厚さを倍にした養生シートが張り巡らされて、足場から滑川さんや、他の現場監督さんが俺に直接指示しながら、要領よく各階を順番に解体していく作業が始まった

なるほど、耳に入れてくれたイヤホンに、ベテラン作業員の隅さんや松っつあんの指示があると作業が捗る
「それじゃない、そっちの、今、お前の手が触ってる、それそれ、その鉄骨を思いっ切り引っ張れや!」てな声が耳元で聴こえるから、安心して力が出せる

その日、仕事時間が終わって、会社を出るタイミングで、駒沢さんから携帯に電話があった
それが嬉しくて、今日やった解体作業のことを話すと「それって、スー〇ーマンしてるってこと?」って、訊いてきたから「そうだよ」って素直に答えたんだ

そのことがいろいろ尾を引くんだけど、あとで駒沢さんから聞いた話だと、そのことをフロアDのザキさんに話したら、その様子を取材させてもらえって言われたらしい
翌朝、駒沢さんから電話があって「ビルの解体作業を取材させてもらえないかな」って言われた

「社長さんが、何て言うかわかんないから、テレビの取材だって言ったらいいんじゃないかな」って、思った通りを口にしたら、昼前に雄仁塚建設にザキさんと取材の申し込みに来たらしい(俺は解体現場)

社長さんは、どうも競争会社に俺のことは隠しときたかったみたいなんだけど、結局、大げさなテレビカメラじゃなく、駒沢さんの手持ちカメラくらいなら、いいってことになった
posted by 熟年超人K at 22:04| Comment(0) | 書き足しお気楽SF小説

2021年03月05日

ランボー超人Bの物語-7超人だってば俺はF

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そりゃ力任せに空中から持ち上げれば、ビルでも引っこ抜けそうだけど、どこがどうつながってて、何を引っ張っちゃって、どこが崩れるか分からんから、皆の頭の上にでも落っことしたらって思うと、それが怖い

「結局、上から壊してけばいいんですよね」
「そりゃそうだなぁ、下から壊してってビルが倒壊したら、大ごとだもんな」当たり前の返事しかない

「俺、ビルを造るとこはやってないすから、鉄骨とか鉄筋とかが、どうつながってるかが分からないんすよ。そこらが分かってないと、上手く解体できないんじゃないかって…」
「そうだなぁ、ま、そこらは加減しながらやってけば、いいよ。それより、壊し出すと舞う粉塵だよな」

そこも心配なとこなんだよな。あんな貯水槽に穴開けたので、水撒いたくらいで、粉塵って収まるのかなぁ。
結局どっちにしたって、俺が注意しながらやるってだけで、誰もわかんないんだよな

「まあ、できるだけってことで、やっちゃいましょうかね」もう考えるのめんどくさい。どうにかなるだろ
「おいおい、上手くやってくれなきゃ、困るよ」俺のやけっぱちがわかったのか、滑川さんが慌てて付け足す

「とりあえず、現場を上から見てみますよ」そう言って、俺が飛び立とうとすると
「俺も連れてってくれよ。一緒に見といた方が、お互い分かり易いだろ」って、滑川さんが俺の手を引っ張る

この間の、駒沢さんとの空中デートとは、全然違って、ちっとも楽しくないけど、とりあえず滑川さんを抱いて、空中に飛び上がって、問題のビルの屋上に降り立った

「どうだ、この辺りから手を突っ込んで、どんなもんで持ち上げれるか、試してみよっか」滑川さんが、興味津々って顔で、そう言う
「分かりました」返事をして、足元の屋上の床に手刀形にして、手を思いっ切り突き立ててみた

ずぶっと、思ったより手応えなく、コンクリートの屋上の床を突き抜けて、ひじの辺りまで、手がめり込む
「うへっ」っていうような声を出して、滑川さんが後ずさりする

「この辺りって、随分薄いんだなぁ。こんなに簡単に屋上床を突き破れるんなら、やれそうだな」少し声が上ずってる。俺は、ずいっと手を引き抜いて
「なんか、なんの手応えも無いんで、これじゃあ、屋根っていうか屋上を引っぺがせませんね」

「おお、そうそう、こういうRC造のビルは、枠組みの大きな鉄骨で支えてるんで、もっと屋上の縁を攻めんといかんな。一旦、俺を下に降ろして、今度は縁の方から、太い鉄骨を掴んでみてくれ」自分は、安全な地上で、様子を見たいってか

それでも素直に滑川さんを地上に降ろして、もう一度屋上に飛び上がって、今度は建物の縁辺りに両手を突っ込んで、大きい枠の鉄材を探した
「掴んだんで、持ち上げてみますー」下の滑川さんに声を掛けてから、太い鉄材をぐいっと持ち上げながら、空中に飛び上がった

ぐわーぎぎぎぃぃー!めきめきめきー!と、とんでもない音がして、ビル全体が持ち上がりかかった
当然、下の滑川さんのとこにも、壁面から剥がれ落ちるコンクリート片や、下の6階から1階までの窓枠がひしゃげて、ガラス片が、爆発したみたいに、バッシャーンと地上に降り注ぎ始める

俺は、びっくりして、慌てて手を離したんで、それ以上にはひどいことにならなかったが、急いで下に降りて滑川さんの無事を確認しにいくと、念のためしていた工事用ヘルメットを両手でしっかり押さえて、ほこりだらけで体を丸めていた

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「大丈夫っすか、滑川さん」俺が声を掛けると、ほこりだらけの顔の中の目をきょろきょろっとさせて
「お、おお、大丈夫だ。けど、ひでぇなぁ、なにか爆破したみたいだったぞぉ」声が上ずってる

「ええ、外枠の太い鉄骨を掴んで持ち上げたら、なんか全体が持ち上がりかかっちゃったんで…」
「しっかし、すげえなぁ、あんたは。どこまで力あんの」そう言う滑川さんは、ちょっぴり怯えてるみたいだ

滑川さんもだけど、俺だって、自分の力に驚いてた。これまで、鉄材やユンボを持ち上げられるくらいだと思ってたんで、まさかビルを丸ごと持ち上げられるなんて、思ってなかったんだ

なんかスー〇ーマン度がぐっと上がって、一般人から見ると怪物レベルになっちゃった気がするんだよね
滑川さんだって、こんなの見せられちゃったんで、もしも俺を怒らせたら…って、びびっちゃってる?

「まあ、いいや。だけど、あの馬鹿力で一気にいっちゃうと、ご近所迷惑ばーりばりなんで、やり方考えんといかんぞ、こりゃぁ」おおっと、もう通常モードに戻ってる。さすが、不動の滑川係長!

でも、そんな簡単な話にはならなかった
近所の住民や、偶然通りかかった車や通行人が、爆発事故だと思って何件も110番通報したんで、じきにパトカーや消防車が十台ほど駆け付ける騒ぎになっちまったから

俺と滑川さんは警察に連れて行かれて、散々事情聴取ってやつで、今回の話を訊かれることになったんだ
もちろん俺は、実際に飛べるとこを見せましょうか、って言ったし、滑川さんも、俺が正真正銘のモノホンのスー〇ーマンなんだって、言ったけど、警察はそんな馬鹿な話じゃ動かない、とかなんとか言われたらしい

俺の方は、もっときつい取り調べで、あの廃ビルでなにをやろうとしてたんだ、とか、お前、クスリやってんじゃないのか、とか、人権なんて無視な対応だった

結局、社員であることが証明された滑川さんは放免されて、バイトでしかも、このところ会社には出てなくて、今日だけあのビルに行った俺は、どうも怪しい、みたいな話になって、一晩警察署に留め置かれることになっちゃったんだ

まあ、あれだけガラスやらコンクリート片やら、下に落っことしたし、屋上からさっと滑川さんのとこに降りたのも、ちらっとは人に見られてただろうし、って思うと疑われてもしょうがないかな、って俺も思う

拘置所っていうのか、とにかく鉄格子がある部屋に、他にもヤバそうな人が何人か入ってるとこに入って、ってことになって、俺としては結構凹んだ訳で
でも、監視してる係員がちょっと場を離れると、同室のおっさんが俺に声かけてくるんだよね

「兄ちゃん、兄ちゃんはなにやったんだ。カツアゲって顔じゃないし、痴漢っぽくも見えんなぁ、じゃ万引き常習かなんかか?」顔はいかついけど、割に親切そうな感じなんだなその人
posted by 熟年超人K at 22:59| Comment(0) | 書き足しお気楽SF小説